バーン、バーンと僕を叩く母の顔は、般若のお面のようでした…【毒母に人生を破壊された息子たち】「毎晩、天井を見て、泣きながら眠っていた」

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 いわゆる「毒親」の被害が顕在化してきたのは、1990年代後半のこと。過干渉や暴言・暴力などで、子どもを思い通りに支配しようとする親、それによって、成人後もさまざまな生きづらさを抱え続ける子ども――。今では問題の深刻さが広く認識されるようになってきた。7月に女優の遠野なぎこが自宅で遺体で発見されるという悲劇が起きたが、彼女もかつて実母から虐待された過去を打ち明けていた。

 従来、毒親に関しては、母が娘を支配する例がクローズアップされてきたが、現実には、母が息子を追い詰め、その人生を破壊してしまうことも少なくないという。ノンフィクション・ライターの黒川祥子氏が、そうした「毒母」に人生を破壊された息子たちに連続インタビューし、その過酷な人生を追った。

 連載の最終回は、両親から精神的、肉体的虐待を受けながら育ち、苦難の人生を送るも、伴侶を得、子どもまでもうけながら、今なお母の呪縛が解けない50代男性の物語である。

【前後編の前編】
【黒川祥子/ノンフィクション・ライター】

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死ぬことをずっと考えて

 穏やかな印象を受ける男性の口から、あまりに平然と、「死」という言葉が飛び出したことに衝撃を受けた。

「とにかく、死ぬことをずっと考えていて、これまで勇気がなくて、死ねなかっただけなんです。自分でもどうやったら死ねるか、ずっと考えに考えた結論が、銃でした。銃なら、一発で苦しまずに死ねる。じゃあ、どうやって、銃を手に入れるのか。AIに聞いてみたら、“それは、違法です。いのちの電話に電話することをおすすめします”って。こんなありきたりの答えしか、出せないのかよって腹が立ちました」

 井川郁人さん(仮名)、51歳。中肉中背の優しい笑顔の持ち主が、まさか、ずっと死を希っているなんて……。井川さんは今、精神科の治療を受けながら、生活保護の支えの下、単身、アパートで暮らしている。

「僕にとっては自分の子の子育てが、ものすごくきつかった。僕は、息子を叩きました。それは彼のより深いところで、トラウマになっていると思う」

「中高年ひきこもり」に括られる男性で、実子がいるというケースは、井川さんが初めてだった。

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