夕食で勧められた赤ワインに母常用の睡眠薬が混入… 両親の無理心中から逃れた娘が引っ越した先で見た夢は『無理心中の忌憶』 川奈まり子の怪異ルポ《百物語》

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 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、怪談の語り部としても活動する川奈まり子が、とっておきの怖い話や不思議な話をルポルタージュ。読んだら最後、逃げ場なし。

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 【前後編の前編/後編を読む】悪夢を繰り返す心中サバイバーの27歳女性は、交際男性の家に転がり込み…新盆で聞いた話が腑に落ちた理由

 事故物件こと心理的瑕疵物件という言葉は今やすっかりメジャーになった。しかしながら実際には、事故や事件で人が亡くなった物件は、その後建物自体がなくなってしまうケースも珍しくないようだ。

 今年7月の朝日新聞に《未解決の殺人事件、4割超で現場解体》というコラムが掲載された。それによれば、未解決殺人事件369件中224件が屋内で遺体が発見されているが、そのうち少なからず(有効回答116件の4割以上)で犯行現場となった物件が現存せず、新たに建てられた民家、あるいは空き地や駐車場、集合住宅などに変わっていることが明らかになったというのだ。

 捜査の継続が望まれている未解決事件の現場ですらそうなのだ。ましてや解決済みの事件なら、問題の物件の撤去や建て替えが行われている可能性はさらに高まることが推測できるではないか。著者の耳にも不思議な話が届いた…。

忘れられた心中事件

 場所は埼玉県に近い都内某所。20年近く前、一家の無理心中事件が起きた。家族を殺した父親の自死により事件が解決したため、すみやかに世間に忘れられた。そしてその現場となった家は解体され、跡地にはマンションが建った。昭和の頃には小規模な工場が多かった界隈だが、今では大半が閉業し、住宅地に様変わりしている。集合住宅も多く、件のマンションもそのうちの一つだ。

 過去の事件を想わせる残存物は何もなく、心理的瑕疵物件の要件にもあてはまらない。マンションの住人は単身者や若いカップルが多く、従って入れ替わりも頻繁で、古くからの住民が噂を広めることもない。だから、10年ほど前にそこに入居した香苗さん(仮名)も、つい最近まで何も知らなかった次第だ。

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