酷暑と水不足の「異常気象」で「一等米が減少し、銘柄米は高騰」の深刻リスク…温暖化が招く「いまそこにあるコメの危機」
猛暑、水不足、需要増、民間業者
木村和也氏は登山専門誌「山と溪谷」で知られる出版社、山と溪谷社のOBだ。生まれ育った新潟県南魚沼市にUターンして実家のコメ農家を継ぎ、フリーペーパー「山歩みち」の編集長を務めている。異色の“兼業農家”と言っていいだろう。
今年は一等米が減少しているのか──木村氏は「南魚沼市では稲刈りが本格化していないので、一等米の比率は全く分かりません」と言う。
「ただ7月の猛暑と水不足の影響は不安材料ですし、稲刈り前に長雨が続いたり、台風が通過したりすれば、一等米が減少する可能性があります。過日、地元のJAが売掛金(註:仮払金または概算金)を発表しましたが、魚沼産のコシヒカリは一等米1俵で3万2500円。昨年より1万3000円高くなり、対前年比167%になります。とはいえ、前述の要因で最悪の場合は収量が減ったり、品質低下があるかもしれません。仮渡金が上がっても、儲かるどころか収益が悪化する可能性もあり得ます。そもそも、コメ価格の高騰が始まったのは、需要を満たすだけの生産が行われてこなかったからです。今年も昨年に比べて需要量に大きな変化はないでしょうから、収穫量が減れば値段が上がることは間違いないでしょう。民間業者のコメ買い取り競争も熾烈化していますし、高価格を提示する農家も増えています。こうした状況を考え合わせると、銘柄米の新米は昨年よりも確実に値上がりするのではないでしょうか」
国産米と米国米の二極化
地元JAが示した概算金を元にコメ5キロの販売価格を木村氏に推定してもらうと、5400円だという。過去最高を記録した4285円が安く思える金額だ。いつかは備蓄米も底を突くことを考えると、コメ高騰は決して絵空事ではない。
「政府はミニマムアクセス米で、アメリカ産コメの割合を増やすと発表しました。これだけだと流通量は増えませんが、コメの高騰が続けば輸入業者が高額の関税を負担しても利益を出せます。今後、小売店では『【1】高価だが安全な国産銘柄米』、『【2】比較的安価だがポストハーベスト(収穫後の殺菌剤、防かび剤)を使うアメリカ米』の2種類か、『【3】国産とアメリカ産米のブレンド米』の3種類が主流になるのではないでしょうか」(同・木村氏)
国産米は高額化が避けられない。となると安いコメを求める消費者がアメリカ米や台湾米を選ぶ可能性が出てくる。
「日本の農家は今のところ、価格では外国米に勝てません。高品質で美味しいコメや、無農薬有機栽培で安全なコメを作ることがこれからの打開策ではないでしょうか。私も今年から無農薬有機栽培を始めました。大きな理由は二つです。農薬の価格が数年前に比べて1・5倍以上になり、その傾向は今後も続くと考えられる。化成肥料の原料はそのほとんどを輸入に頼っており、国内生産だけで賄える有機資材を使う方が長い目で安定的な供給を維持できることです。これに加え、将来的な展望として無農薬有機栽培が市場価値として高まるだろうと推測しているからです。私個人でいえば、無農薬栽培によってこの秋の収量はすでに3割以上減ることが分かっているのですが、今後も続けたいと考えています。安全安心なコメを作っても、短期的には利益があがることはないでしょう。しかし、値段だけでなく、安全なコメを求める消費者は今後増加すると私は想定しており、そうしたお客さまが増え、需要が高まってくれば、結果、それは社会貢献と結びつき、自ずから私自身も潤ってくると考えています」(同・木村氏)
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