「森川ジョージ先生はツンデレぶりが凄いですね(笑)」 がん闘病中の「BOYS BE…」作者が語った“漫画家としての使命”

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 1990年代の恋愛漫画の金字塔「BOYS BE…」などの代表作で知られ、当時の「週刊少年マガジン」を牽引した漫画家の一人である玉越博幸氏。55歳になった現在も、「ガンダムエース」で「機動戦士ガンダムポケットの中の戦争(以下、ポケ戦)」、「モバMAN」で「余命一年のAV女優」の2本を連載している。

 実は、玉越氏は2022年に大腸がんと宣告された。3年を超える闘病生活を続ける玉越氏は今、何を思うのか。がんと宣告されたことが、漫画家人生にどのような影響をもたらしたのだろうか。そして、闘病しながら、どのような思いで創作を続けているのか。独占インタビューで話を伺った。(全2回中の第2回)【取材・文=山内貴範】

闘病生活で、漫画を描く楽しさを実感

――死生観などに変化はありましたか。

玉越:飲み会に行くと、友達の漫画家さんと飲んで楽しいんだけれど、なんとなく壁を感じるようになりました。あと、死神に片足を掴まれているという感じもあるというか。それでも、僕はなんだか自分ががんだという現実味を持てないときもあります。手術の前日に手術着を着た時や、抗がん剤をやる直前にやっと実感がわくほどです。

 それでも、体調の不調はたびたび感じます。疲れやすかったりとか、しょっちゅう眠くなったりしますね。これは僕からのアドバイスですが、こうした異変を感じたらすぐ病院で検査をしたほうがいいと思います。がんが再発しているかなと思ったときも、そういった疲労感があったんですよ。実際、検査すると、再発していると言われましたから。

――闘病生活を送りながらも、漫画を描いているそうですね。

玉越:動けるときはずっと漫画を描いていますね。人間はしんどいからといって寝ていると、どんどん弱くなってしまう気がします。体というより、心が死んでいくと思うんです。

 抗がん剤を始めたときは動けなくて、どんどん気持ちが沈んでいきました。そこで、積んでいたガンプラを作ろうと思い立ちました。1日かけて右腕や足ができると、何かをやり遂げたという達成感があったのです。そこで、漫画も描いてみることにしました。がんになる前のようなペースでは描けないけれど、1コマ仕上げただけで達成感が大きかったのです。

 そんな感情を持てたことが、とても嬉しかった。1日1コマでも、積もり積もれば作品ができるわけで、漫画を描くことほど達成感が得られる仕事ってないなと思いました。落描きも上手く描けると嬉しいし、XにUPして反響があるとまた嬉しい。みんなが喜んでくれると、本当に励みになるんです。

 病室でペンを持てない時も、次はこんなアプローチで描いてみようとか、「ポケ戦」も線を多くしてトーンを少なくして描こう……とか、考える時間に充てています。ベッドの上では動けないから、空想するしかない。退院後にアウトプットすることを想定して、いろいろなことを考えるようにしています。

原稿を待ってくれている編集部に感謝

――お話を伺うと、苦しいなかでも、創作意欲がかえって旺盛になっている気がしますね。

玉越:僕が闘病生活を続けられているのは、原稿を待ってくれている編集部のおかげです。今は2本連載しているのですが、両方の編集部が「できあがったら、出してよ」「無理はしなくていいですよ」と言ってくれているんです。これが本当に嬉しいんです。なので、お言葉に甘えてそうしています。

 仕事をしていると嫌なことを忘れるし、ふと、連載がなかったら僕はどうなっていたんだろうと思うほど。それほど、自分は漫画が好きなんだと実感しましたね。抗がん剤治療を行うと、副作用で手がしびれることがあると言われたときは恐怖だったのですが、今のところその症状がなく、漫画を描けるのが幸いです。

――そんな先生が連載している漫画の一つが、「余命一年のAV女優」です。

玉越:主人公の天月もゆちゃんは余命宣告を受けています。作者の僕自身、彼女に感情移入が深くできているし、よりリアルな思いが描けるようになりました。それは病気になってみないとわからなかったことだし、抗がん剤によって髪の毛が抜けたり抜けなかったりとか、そういうリアルな実情がわかるのです。

 一方で、「ポケ戦」は戦場がメインですが、死についてもよりリアルに描こうと、やはり気持ちを反映できています。僕のなかで、“美少女”と“ロボット”は切っても切れないもの。「ガンダム」を描いて、飽きたら今度は「美少女」を描けるのは幸せなことです。僕にとって、漫画だけは取り上げられたくない。そのくらい大事なものですね。

 僕はこれまでも、漫画をしっかり最後まで完結させることにこだわってきました。だからこそ、「ポケ戦」も「AV女優」も最後まで描かないといけないと思っています。がんになっても、左手にペンを巻き付けて描いている人もいましたし、僕もそうありたいと思っています。

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