「最近、マルトクがおとなしい」…“森本検察”に「秋の陣」はあるか 巨悪を眠らせない「最強の捜査機関」不気味な沈黙の意味とは

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「ここ何年か、マルトクがおとなしいね」

 検察官を途中で辞めた、いわゆる「ヤメ検」の弁護士がこう語る。マルトクとは検察の隠語で、特捜部のこと。発言の意味は、かつて「巨悪を眠らせない」とのフレーズで政財官界、とりわけ政界を震え上がらせた東京地検特捜部が、耳目を集めるような大型疑獄事件を手掛けていないという意味だ。検察関係者は「要因の一つに、検事総長就任が射程に入った元『特捜検察のエース』森本宏氏(57)の存在にあるという人もいます」と話す。

特捜検察の元エース

 森本氏は東京地検特捜部の生え抜き。ヒラ検(無役職の検事)時代に、後述する福島県知事の贈収賄事件(2006年)で取調官を務め、副部長としては猪瀬直樹元東京都知事(78)が、徳洲会から資金提供を受けていた公選法違反事件の捜査で発覚した徳田毅元衆院議員(54)側の選挙違反事件を指揮して、議員辞職に追い込んだ(2013年)。

 2017年9月から約3年間に及ぶ“長期政権”となった特捜部長時代には、10年ぶりの国会議員逮捕であるだけでなく、17年ぶりの政界汚職摘発ともなった秋元司元衆議院議員(53)のIR汚職を手掛けた(2019年)。

 だが一方で、参院議員を1期務めた後に、福島県知事として5期にわたり県政を差配していた佐藤栄佐久氏(今年3月、死去)の事件では、佐藤氏の弟を取り調べ、

「知事は日本にとってよろしくない。いずれ抹殺する」

 と言い放ったと、佐藤氏が著書に記したことが国会で取り上げられるなど、「とにかくイケイケの捜査官でした」(同弁護士)という。

 特捜部長の後は津地検トップの検事正に栄転したが、

「通常、検事正は地検の顔であり、捜査などの実務はナンバー2の次席検事が取り仕切るのですが、じっとしていられないのが森本さんです。三重大病院元准教授のカルテ改竄(かいざん)事件から元教授の収賄事件につなげる独自捜査を手掛けました。本来なら津地検の規模では手に負えない事件でした」(前出・検察関係者)

 東京地検特捜部の捜査にゴーサインを出す立場である東京地検次席検事に赴任した2021年7月、そして23年7月から24年7月までは最高検に移って刑事部長も務めているが、前出の検察関係者によると、

「この3年間は、まさに森本さんが“陰の特捜部長”だったと言えます」

 この間の特捜部長は、現職で名古屋大学の後輩に当たる伊藤文規氏ら3人だが、実質的に特捜部を仕切っていたのが森本氏だというのである。では、その間にどんな事件があったのだろうか。

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