「最近、マルトクがおとなしい」…“森本検察”に「秋の陣」はあるか 巨悪を眠らせない「最強の捜査機関」不気味な沈黙の意味とは

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まさに野武士のよう

 検察官として奉職しても、法務行政で能力を発揮する「官僚然とした検事」と、事件捜査に熱中する検事は全く異質だ。前者は法務省がホームタウンとなり、後者は花形の特捜部が主戦場となる。だから、政界の不正と闘ってきた歴代東京地検特捜部長には官僚らしからぬ面々も少なくなかった。

 中井憲治元部長(2022年死去)は法務省の矯正局長に栄転していた2003年、名古屋刑務所で受刑者が死傷した事件が法相にしっかりと報告されていなかったことについて、衆院予算委員会の答弁で「大臣に報告すべきものと思っていない」と言い放ち、「国会を冒涜」「大臣軽視だ」と批判を受けて更迭されている。

 井内顯策元部長は副部長だった2001年、大学設置を目指し数々の政界工作が行われたKSD事件で「参院のドン」と呼ばれた村上正邦元労相(現・厚労相=20年死去)の取り調べで、村上氏に「ここで腹を切ってみろ」と暴言を吐いたとの記事が新聞に掲載されたことが国会で取り沙汰された逸話で知られる。

 熊崎勝彦元部長(22年死去)は副部長だった1993年、「政界のドン」と称された金丸信元自民党副総裁(96年死去)の脱税事件で金丸氏本人の取り調べを担当した武勇伝がよく知られる。だが一方で部長時代には新井将敬元衆院議員(98年死去)が、自身の株取引を巡る不正疑惑で事情聴取直前に自殺。政界の一部からは「捜査が強引すぎたのでは」との疑念の声も漏れた。

 特捜部を“卒業”してから、陰の特捜部長として辣腕(らつわん)を振るった例には石川達紘氏(86)が挙げられる。金丸氏の脱税は査察事件を通じて昵懇(じっこん)にしていた国税当局から東京地検次席検事となっていた石川氏に情報がもたらされ、石川氏の指示で事件化されたものだ。大臣と政令市長各1人や知事2人が立て続けに逮捕されたゼネコン汚職も石川氏が捜査に助言。防衛利権に切り込んだ旧防衛庁調達実施本部背任事件は同地検の検事正として石川氏の指示で捜査が行われた。この事件は「平成研のプリンス」と呼ばれ、一時は将来の総理と持て囃された額賀福四郎衆院議長(81)を防衛庁長官(現・防衛相)の辞任に追い込む結果となった。

 60年余り前に特捜部長を務め、「東京地検特捜部生みの親」との異名がある昭和の名物特捜検事河井信太郎氏(82年死去)は「まさに野武士のような捜査検事だった」と評される。頭脳明晰で温情派の反面、捜査の乱暴さも目立った。前出の弁護士は「特捜検察最大の功労者ですが、強引な取り調べや事前に描いた事件の構図に拘泥する捜査手法の源流との見方もあります」と指摘した上で、こう語る。

「以前の森本氏はその系譜に連なっていましたが、今は政界との摩擦を極力避ける令和流のソフト路線に変更したようです」

 政界を揺るがす疑獄事件に特捜部が着手――そんな“秋の陣”を期待したいが……。

岡本純一(おかもと・じゅんいち)
ジャーナリスト。特捜検察の捜査解説や検察内部の暗闘劇など司法分野を中心に執筆。月刊誌「新潮45」(休刊中)では過去に「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」や「なぜ『東京高検検事長』は小沢一郎を守ったか」などの特集記事を手掛けた。

デイリー新潮編集部

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