「絶対に一橋大に進みなさい」…深夜1時まで勉強を強制された小学生時代 母親にかけられた深すぎる「呪い」の言葉【毒母に人生を破壊された息子たち】

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 近年、ますます社会問題化している「毒親問題」。過干渉や暴言・暴力などで、子どもを思い通りに支配しようとする親、それによって、将来に亘ってさまざまな生きづらさを抱え続ける子ども――。1990年代後半から被害が顕在化し、今ではその深刻さが広く認識されるようになってきた。7月に女優の遠野なぎこが自宅で遺体で発見されるという悲劇が起きたが、彼女もかつて実母から虐待された過去を打ち明けていた。

 従来、毒親に関しては、母が娘を支配する例がクローズアップされてきたが、現実には、母が息子を追い詰め、その人生を破壊してしまうことも少なくないという。ノンフィクション・ライターの黒川祥子氏が、そうした「毒母」に人生を破壊された息子たちに連続インタビューし、その過酷な人生を追った。

 連載の第一回は、幼い頃から塾経営者の母に難関大学に進学することを強いられ、その“期待”に応えたものの、その後の人生を「ひきこもり」として過ごすことを余儀なくされている60代男性の物語である。

 【前後編の前編】

 【黒川祥子/ノンフィクション・ライター】

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高齢化したひきこもりの語らいの場

 土曜の昼下がり、公民館の和室には静謐な空気が流れていた。三々五々集まってきた人たちがテーブルを囲み、座布団に座る。

「ひ」きこもりと、「老」いを考える、「ひ老会」が始まろうとしていた。「ひ老会」は、ひきこもりが長期化している、中高年ひきこもり当事者のための数少ない貴重な場だ。

 参加者のために急須で日本茶を入れているのが、主催者であり、自身も中高年ひきこもり当事者である、ぼそっと池井多さん、63歳だ。中肉中背で、穏やかな人柄が所作から窺える。頭髪には白いものが混じり、重ねてきた年月を物語る。

自分の中にある“答え”

 会の冒頭、池井多さんが静かな口調でルールを伝える。基本、言いっぱなし、聞きっぱなし。批判はしない。それぞれが「人生の当事者」として、悩みや思いを語っていく。

「皆さん、たとえ、ひきこもり支援者である方でも、当事者として参加していただきます。誰もが皆、『人生の当事者』であるからです。全員が『当事者』という、同じ地平に立って言葉を交わすのがこの会です」

 知性を感じさせる淡々とした語り口、参加者への眼差しは優しい。一巡、二巡と、参加者それぞれが、自己を吐露していく。車座の一人として、ここは安心して思いを分かち合える場であることがはっきりわかる。

「『ひ老会』は、自分の中にある“答え”へと安心して降りていき、たどりつける時間と空間です」

 この分かち合いの時間と空間こそが、池井多さんが目指すものなのだ。

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