「絶対に一橋大に進みなさい」…深夜1時まで勉強を強制された小学生時代 母親にかけられた深すぎる「呪い」の言葉【毒母に人生を破壊された息子たち】

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スパゲティの惨劇

 母親がどういう人間だったかを象徴するのに、「スパゲティの惨劇」がある。

 夕方、母親は決まって聞いてきた。

「おまえ、夕ごはん、何が食べたいの?」

 聞かれたとて、希望を言える関係でないことは幼い頃からわかっていた。

「だから、僕は “なんでもいいよ”と答えるんです。すると、“なんでもいいじゃ、わからないわよ!”と、母親がヒートアップして、“ねえ、スパゲティ、食べたくない?”と、決まって誘導してくるんです。母親は次第に苛立ってきて、僕は苛立ちが怒りに変わるのが恐ろしくて、“はい、スパゲティ、食べたいです”って、言うしかないんです」

この子、殴ってやって

 そうして目の前に、手作りのスパゲティの皿が置かれても、食べたくもないから、食が進まずにのろのろ食べていると、母の怒りは頂点に達する。

「そんなに食べたくないなら、食べなくていい!」

 母親はスパゲティの皿を取り上げ、台所の流しに投げつける。あまりに理不尽であるが、幼な子は起こることなどできず、恐怖と悲しみからまず泣く。そこに、決まって父親が帰宅する。

「お父さん、この子、“スパゲティが食べたいって言うから作ってあげたのに、こんなもの、食えるか!”って、スパゲティを捨てちゃったの。お父さん、この子、殴ってやって」

 言われるがまま、父はズボンからベルトを取り出し、ベルトで息子を打ち付ける。

「スパゲッティは炒飯だったりオムレツだったりいろいろですが、ともかく、冤罪を仕掛け、父親に殴らせるという展開は同じです。母親は、自分では殴らない。この“スパゲティの惨劇”に、母親の全てが集約されているんです。私は虐待してないわよ、私の手は汚れていない、私はそんな人間じゃないわよ、と虐待の加害者であるにも関わらず、巧妙にすり抜ける」

 家庭という密室で日常的に行われた、冤罪による子どもへの制裁。これが、池井多さんの日常だった。【後編】では、大学受験後の池井多さんの辿った「ひきこもり」の道と、後に「スパゲティの惨劇」について尋ねた際、母の口から出てきた衝撃的な言葉について詳述する。

黒川祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション・ライター。福島県生まれ。東京女子大学卒業後、専門紙記者、タウン誌記者を経て独立。家族や子ども、教育を主たるテーマに取材を続ける。著書『誕生日を知らない女の子』で開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『PTA不要論』『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』『シングルマザー、その後』など。最新刊に『母と娘。それでも生きることにした』。雑誌記事も多数。

デイリー新潮編集部

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