「南京大虐殺はなかった」「うそつき!」 戦後80年たっても続く不毛な論争の終わらせ方

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参政党議員や櫻井よしこ氏が批判の対象に

 先の参院選で初当選した参政党の初鹿野裕樹議員は、〈南京大虐殺が本当にあったと信じている人がまだいるのかと思うと残念でならない〉と6月18日にSNSに投稿していた内容が選挙後の7月末に発掘され、話題となった。

 さらには8月4日、産経新聞の1面コラムで櫻井よしこ氏が〈「南京大虐殺」はわが国の研究者らによってなかったことが証明済みだ〉と書いた紙面の一部がSNSに投稿され、「ついに櫻井よしこのようなジャーナリストまでが、南京での出来事をなかったことにしている」「新聞の1面にこれが載るとは」と大騒ぎになったのである。

 初鹿野氏の場合は、SNSの短い文章のため、真意が読み切れないが、続く一文と合わせて考えると「南京での戦闘以外の殺害=ゼロ」と考えている可能性は否定できない。

 だが、櫻井氏の場合は文章の前段で中国がこの戦後80年の夏に仕掛けている抗日キャンペーンを取り上げ、それに対する日本政府の無策を批判している。その中でわざわざ〈「南京大虐殺」〉とカッコでくくったうえで〈なかったことが証明済み〉としている。

 文脈上、櫻井氏の意図するところはカッコでくくることによって「いわゆる南京大虐殺」、「中国が言っているところの南京大虐殺」という意味を込めていて、それを「なかった」としているものと読み取れる。念のため、櫻井氏の『親中派80年の嘘』(産経新聞出版)を確認したが、関連する部分ではやはり中国の言い分を否定する記述が続いており、「残虐な事例が一件も起きていない」と認識していることを示すような表現は見つからない。

 そもそも〈「南京大虐殺」〉といった表記は保守派の雑誌や文章ではよく使われ、それが文脈上「いわゆる中国が言うところの南京大虐殺」を意味することは、半ば暗黙の了解になりつつある。

 ただしこれは、保守派の間に「中国の主張する南京大虐殺の定義は、特に被害者数の部分で疑わしい」という共通の認識があるからこそ通じるものだろう。そうでない人にとってはカッコでくくっている意味が分からないし、批判的に読もうと思えば、あえて読み取る「丁寧さ」は必要はないということになる。

 そのため、櫻井批判を展開する人たちは、「櫻井氏が南京大虐殺は存在しなかったと書いた」と指摘。結果、櫻井氏の記事に対する批判は膨れ上がり、「参政党どころか、ジャーナリストまでが歴史を否定」「産経新聞の一面に載るなんて、世も末だ」といった次第で、批判がSNS上で広がっていったのだ。

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