「南京大虐殺はなかった」「うそつき!」 戦後80年たっても続く不毛な論争の終わらせ方
歴史に興味のある方は「またか」と既視感を覚えたに違いない。先の参議院選挙で参政党から出馬して当選した初鹿野裕樹(はじかのひろき)議員の南京大虐殺に関するXでの投稿に対して、批判や異論が噴出しているのだ。
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問題となったXでの投稿は選挙前のもの(6月18日)。ここで初鹿野氏は、「【捏造された南京事件】南京大虐殺が本当にあったと信じている人がまだいるのかと思うと残念でならない。日本軍は『焼くな、犯すな、殺すな』の三戒を遵守した世界一紳士な軍隊である」などと述べている。
いわゆる「南京大虐殺」に関して、政府見解は定まっており、アカデミズムの世界でもすでに論争のメインテーマとはなっていない。にもかかわらずなぜこうした「論争」は終わらないのか。
『「“右翼”雑誌」の舞台裏』の著者でライターの梶原麻衣子氏が、不毛な論争の実態と「終わらせ方」を解説する。
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南京大虐殺はありましたか?
「先生は、南京大虐殺はあったとお考えですか」
戦後80年の節目を迎えた今年、この質問が投げかけられる場面に居合わせた。主催者の関係上、保守派の聴衆が多く集まっているとみられる「戦争を考える勉強会」でのことで、講師は日本でも有数の近現代史の専門家、それも日中戦争研究の専門家が務めていた。
講演では「南京が陥落しましたが、その際には日本軍兵士によって起きてはならないことも起きてしまいました」といった程度の説明があったと記憶している。
質疑応答の時間に冒頭の質問を受けた講師は、一瞬、何を聞かれているのか分からない様子で、質問を聞き返した。そして質問者が「南京大虐殺なんて、本当はなかったんじゃないんですか」という主旨で質問したことに気が付くと、極めて丁寧に、しかし少し語気を強めて「規模の大小には議論がありますが、虐殺に相当する事例がなかったというのは間違いです」という主旨の回答を述べた。
質問者が講師の説明に納得したかどうかは、後ろ姿からは読み取れなかった。
おそらく質問者は、「中国が主張する30万人もの被害者が出たとする南京大虐殺の真偽」について、あるいはそれに対する講師の認識について聞きたかったのだろう。一方、講師は「歴史的事象としての、南京陥落時に起きた残虐行為の有無」を聞かれたと受け取った。「南京大虐殺は、あったか、なかったか」という質問では、こうしたずれが生じてしまうのである。
そして、こうした認識のずれは新たな火種を生んでもいる。
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