60歳男性の人生を決定づけた、30年前の「出られなかった電話」 事件はバブルの狂乱の果てに起きた

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【前後編の前編/後編を読む】「『あの子は浮気しているよ…』認知症の義母の言葉は本当なのか 嫉妬と不安に導かれた60歳夫の選択とその後

 生涯でたった一度、不倫をしたという人もいれば、何度も繰り返す人もいる。もちろん、結婚したら一度も浮気などしない人もいるだろう。人はなぜ不倫をするのか。もともと本人がもっている「恋愛体質」のせいなのか、あるいは「出会いを引き寄せる力」なのか、はたまた「モテたい欲求の強弱」の問題なのか。同じ状況にあっても、不倫関係を結んでしまう人と結ばない人、何が違うのか。倫理観の問題だけでは解決できないような気がしてならない。

「結婚したらもう恋愛はしないもの」と決め込み、それを守れるなら誰も不倫などしない。守れなくなりそうだったのにギリギリで踏みとどまった男性に聞くと、その理由は「ことが進んだらめんどうだから」という声が多い。つまりは進むのは恋愛感情や情熱の問題で、進まないのは保身のためとも考えられる。保身が悪いわけではないが、抑圧が強いといずれ何かが爆発しないとも限らない。

「僕はついに爆発してしまった、ということですね。自爆です」

 苦い表情で、それでも少し笑おうとしながら藤倉貴敏さん(60歳・仮名=以下同)は言った。還暦とはいえ、非常に若々しい。50代半ばで体を見直し、歯をきれいに整え、筋トレを始めた。そのかいあって身長175センチ、しなやかな筋肉を保っているという。

バブルを謳歌して

 首都圏のとある町で、サラリーマン家庭の長男として生まれた。父は大手企業に勤務していたが学歴がなかったためか出世できなかった。職場結婚した母は専業主婦として高度成長期に家事と子育て、その後はパートで働くという当時の典型的な女性のありようをまっとうした。3歳違いの妹がいる。

「せめて高校までは公立に行ってほしいと言われていました。僕もそのつもりだった。一年浪人して私立大学に入学。バブル前夜のころに就職だったので、大手の企業から内定が出ました。第一希望のとこから内定をもらい、ほぼ“拉致”されるように研修を入れられましたが、それがなんと海外だった。つまり海外旅行に連れ出され、他の会社からのアプローチを受けないようにされたわけです。僕ですらそういう状態だったから、あのころの学生は引く手あまたでしたね」

 入社してすぐバブルが始まった。わけがわからないまま景気の波に飲み込まれたようだったと貴敏さんは言う。先輩に連れられて夜遊びをしまくったが、自腹を切ったことはなかった。なぜか誰かが払ってくれていた。

「世の中がパッパラパーという感じでしたよね(笑)。何も考えずに明るく生きていれば道は開けていくという根拠のない自信に、みんな満ちていて。今思えば狂乱の数年間だったけど、楽しかったのは事実。あとであんな地獄が待ち受けているとは思っていなかったけど」

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