「トランプ関税」が招く外交問題 「インドの中ロ接近」「BRICSの結束」を招き“敵に塩を送る”結果に

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関税収入の分配構想はトランプ氏の切迫感の表れか

 トランプ関税の弊害は外交・安全保障面に限らない。米国経済への打撃も顕在化しつつある。

 関税措置が、米国の幅広い業種に大きな痛みを与えていることが第2四半期の決算発表で明らかになっている。AP通信が4日に発表した世論調査によれば、米国の成人の86%が食料品の価格にストレスを感じている。

 このような状況を踏まえ、ウォール街の専門家の間には、米国経済にスタグフレーション(不景気下の物価高)入りの可能性が生じたとの懸念が生まれている。

 国民の不満を感じたからだろうか、トランプ氏は3日、関税収入を中産・低所得層に配当金の形式で分配すると表明した。米国の今年度の関税収入は昨年の4倍近くに増加する見込みだが、巨額の財政赤字のことを考えるとこの計画の実現は容易ではない。

 関税収入の分配構想はトランプ氏の切迫感の表れではないか、との声も聞こえてくる。

米国の消費が止まれば世界経済に悪影響

 トランプ関税の悪影響は米国経済にとどまらない。

 経済学の教えに従えば、米国の貿易赤字は“米国が他国からお金を借りて他国のモノを消費すること”を意味する。その米国の貿易赤字はトランプ関税により減り始めており、6月は前月に比べ16%減少した。

 経常収支の大宗(たいそう)を占める(=大半を占める)貿易赤字が縮小すれば、米国に流入する資本も減少する。

 米国は“他国からお金を借りて消費を拡大する”という行動を抑制し始めているのだが、この傾向が続けば、世界経済に与える悪影響は計り知れない。世界経済は1980年代以降、米国の消費に依存して拡大してきたからだ。

 成長のエンジンだった米国の消費があてにできなくなれば、世界経済は失速し、長期間にわたり不況が続く可能性が高いのではないか。

 前述のベッセント氏は米国の国際収支の不均衡を問題視しているが、この問題を関税引き上げによって短期間で解決しようとすれば、現在よりもはるかに深刻な問題が生じてしまうのではないかとの不安が頭をよぎる。

 残念ながら、トランプ関税が国際社会を不安定化させるのは不可避なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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