「トランプ関税」が招く外交問題 「インドの中ロ接近」「BRICSの結束」を招き“敵に塩を送る”結果に
ウルグアイ・ラウンドに代わるトランプ・ラウンド
「(相互関税は)時間がたつにつれ角氷のように溶けていくべき存在だ」
日本をはじめ各国との貿易交渉を主導するベッセント米財務長官は、8月11日に公開された日本経済新聞のインタビューでこのように述べた。
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ベッセント氏は将来的な税率引き下げや撤廃の可能性を示した形だ。その具体的な条件は、米国に生産拠点が戻って輸入量が減り、国際不均衡が是正されることだが、これを実現するのは、「言うは易し、行うは難し」だ。
トランプ関税は原理主義的な性格を内包している可能性もある。
米通商代表部(USTR)のグリア代表は米紙「ニューヨークタイムズ」(7日付)への寄稿で、米国が関税などを武器に他国の貿易障壁を撤廃する、いわゆる「トランプ・ラウンド」の確立を主張した。世界各国に課した相互関税は、1986年から続くウルグアイ・ラウンドに代わる新たな多国間貿易の枠組みとの認識を示したのだ。
国際社会は第2次世界大戦後、米国主導で自由貿易体制の拡充に努めてきた。だが、グリア氏は「この体制下では米国の雇用と経済安全保障は傷つくばかり」とけんもほろろだ。
関税は「外交政策の手段」
関税交渉の過程で従来のワシントン政治の手法は通じなかったようだ。米政治専門メデイア「ポリティコ」は9日、少なくとも30カ国が数千万ドルを費やしてトランプ大統領とつながりのあるロビイストを雇ったが、効果はなかったと報じた。
トランプ政権が続く限り、関税の引き下げはほとんど不可能なのではないかと思わざるを得ない。
トランプ政権の関税政策にもう一つの特徴があるのも気がかりだ。
ベッセント氏は7日に放送されたFOXニュースの番組で、「トランプ氏は関税を外交政策の手段として利用している」と述べた。
その効果は早くも表れている。トランプ氏は7月26日、タイとカンボジアの首脳に電話で「戦闘を続けるならどちらの国とも関税合意を結ぶつもりはない」と伝えた。同月24日から武力衝突していた両国は28日に停戦に合意し、その際、トランプ氏に謝意まで示した。
敵視されていたBRICSには有利な状況か
中国の裏庭でリーダーシップを発揮できたことにトランプ氏はご満悦だが、逆のケースの方が多いと言わざるを得ない。
米国政府が6日、ロシア産原油の購入を理由に相互関税を25%から50%に引き上げることを発表すると、インドは猛反発した。
ロイターは8日、インド政府が米国製兵器や航空機の調達計画を停止したと報じた。インドは中国やロシアに接近する姿勢も示しており、インドを両国に対する地政学的な対抗勢力として育てたいとする米国のこれまでの外交目標が台無しとなりつつある。
米国政府はブラジルにも50%もの関税を課しており、その結果、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが主要メンバー)の団結力が強まるとの指摘も出ている。
BRICSはこのところ参加メンバーを増やしているが、団体の目的が不明確であるため、求心力が低下していた。トランプ氏のおかげで結束の礎が出来たというわけだ。BRICSの活動を敵視してきたトランプ氏だが、皮肉にも自身の政策が“塩を送る”結果になってしまった。
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