「ゆっくり振られる手が見えた」生存者を発見した消防団員、マスコミの殺到を予測した球団社長夫人…「日航機事故」関係者と遺族の“長い一日”

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もしやと思ってテレビにかじりついた

 ともあれ、トシさんはいま、1年前を思い起こして、こう語る。

「あの時、私の頭をよぎったのは、主人は阪神タイガースの関係者でもある。これはマスコミの方か殺到してくるなということでしたね。そこで、家中の雨戸を閉め、灯りも消して留守を装いました。その一方で、阪神の広報の方や弟たちに連絡し、取材に対応してもらうよう手配したのです」

 案の定、マスコミは彼女の家の前にワッとばかりに押し寄せた。

「でも」とトシさんがいう。

「おかげで、一部には私が心痛のあまり倒れて寝込んだと書いたところもありましたが、それより何より、その晩はむろんそれどころではなかったんですよ。どうしていいか分からず、ただただ一晩中、テレビを見続けておりました。で、朝になって、“生存者がいる模様”というニュースが流れた時には、やっぱり、“もしや”と思ってテレビにかじりついたのです」

 トシさんによれば、「その間、日航からは、どうしたわけか、ついに何の連絡もなかった」ともいう。いずれにしてもこの日、中埜氏が上京し、運輸省に赴いたのはきわめて異例。

「毎週月曜日は、大阪で電鉄の常務会があるので、大阪を留守にするということはこれまでほとんどなかったのですよ」

 トシさんには、それが何とも心残りらしいのだ。

デイリー新潮編集部

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