誘い文句は「コメが安く買える。一緒に行こう」…昭和最悪の性犯罪者「小平義雄」が10人の女性を毒牙にかけるまで

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浮上する一人の男

 早速、現場に残された遺留品を見てもらうと、母親は「これは娘のものです」と、男物の腹巻を指さした。てっきり犯人の遺留品だと思っていた捜査本部だが、腹巻はもともと父親のもので、娘はいつもこの腹巻を使用していた。また、左手の指に特徴があることを申告、遺体の状況とも一致した。これで、被害者A子さん(17)が特定された。

 A子さんはこの年、通っていた商業学校を3年で中退。両親は別居しており、姉と弟の面倒を見る母親を助けようと喫茶店で働きながら、新しい仕事を探していた。

「家族からの事情聴取によると、同女は7月14日、勤め先から帰る途中、品川駅ホームで電車を待っていた時、40歳くらいの男に『私が世話をするから喫茶店など辞めて、芝区高浜町の進駐軍兵舎に勤めたら』と勧められてその世話を頼み、8月6日にその男と会う約束になっていた」(警察庁の資料より)

 A子さんは、男と出会ったことを母親に全て話していた。7月14日は品川駅前で事故があり、電車を待っているA子さんに男が話しかけてきたのだった。男は進駐軍に勤めている「元主計中尉」であると語り、就職口を探しているA子さんに「心当たりがある」と言い、「気が向いたらいつでも手紙を下さい」と名刺を差し出した。この時、男から、

〈ジャムつきのパンをもらって帰った〉(朝日新聞 昭和21年8月22日付け紙面より)

 当時としては大変なご馳走だ。ちゃんとした仕事に就いていることの証左だろう。A子さんはすっかり信用してしまった。その後、8月5日にこの男はA子さん宅を訪問、母親と面会している。翌6日、一緒に仕事を探しに行く約束をし、当日、自宅を出たままA子さんは戻らなかった。翌日、名刺の住所に男の自宅を訪ねると、こう語った。

「約束の時間にA子さんは来ませんでした。私も心配していたんです」

 男の渡した名刺には「小平義雄」とあった。

【第2回は「17歳の少女の衣類をはぎ取り…『若いきれいな女』ばかりを狙った鬼畜『小平義雄』が死刑の直前に口にした『意外な言葉』」 逮捕された鬼畜から語られた事件の真相とは…】

デイリー新潮編集部

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