【終戦80年】の「8月15日」に観てほしい珠玉の名画…4Kで復活した伝説の「反戦映画」に「4時間37分」の大作ドキュメンタリーも

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8月15日に上映される映画「東京裁判」

 ところで、今年の8月15日は金曜日だが、渋谷・ユーロスペースと、銀座・東劇で、この日だけ、上映される映画がある。前代未聞のドキュメンタリー映画「東京裁判」(小林正樹監督、1983年)である(ただし、東京都写真美術館ホールでは、8月3日~17日にも上映。休映日あり)。

「実は、これこそ、8月15日に、すべての日本人に観てもらいたい映画なのです。ただし、途中休憩ありとはいえ、4時間37分の長尺とあって、さすがに誰にでもお薦めできるものではありません。しかし、もし『国宝』の3時間を長く感じなかったのであれば、こちらの4時間37分のほうが、あっという間に感じると思います」

 終戦後、戦勝国によって、敗戦国日本の戦争指導者たちが裁かれた「極東国際軍事裁判」(通称「東京裁判」)のすべてを、アメリカ国防総省が撮影していた。その50万フィートのフィルムから、小林正樹監督が、当時の記録映像も加え、5年の歳月をかけて編集制作した、尋常ではないドキュメンタリーである。では、どこがすごいのか。映画ジャーナリスト氏にまとめてもらった。

「まず、この映画は、開廷の場面まで、1時間弱もあります。なぜ第2次世界大戦が起き、どうやって終戦に至ったのかを、じっくり説明したうえで、法廷のシーンに入るのです。つまり、題名は『東京裁判』ですが、映画は、先の大戦全体を描いているのです。次に、昭和天皇の、8月15日正午の玉音放送が、ルビ付き字幕で、全編、流れます。約5分弱ですが、おそらく、全文をきちんと読んだり聞いたりしたことのあるひとは、少ないと思います」

 すべてが「戦勝国側の論理」で進み、広島・長崎や東京大空襲など、アメリカの“戦争犯罪”が裁かれないことの不条理も、法廷で取り上げられている。アメリカ側のフィルムがもとになっていながら、こういう場面も残されているという。

「ちなみに、大川周明が“発狂”して、東条英機の頭をたたく奇妙な瞬間も、ちゃんととらえられています。そして戦後、日本軍の行為や思想は、すべて“悪”だったとの、一種の被虐史観が定着しました。それは、占領軍がこの東京裁判を通じて日本人に植えつけたものであることが、よくわかります。もちろん戦時中の日本軍の行為を肯定するものではありませんが、東京裁判とは、戦勝国が敗戦国を“洗脳”する手段だったことが、よくわかります。それが4Kとなって、80年前の映像とは、とても思えない鮮明な映像となりました。よって、“むかしの映像”を観る感覚が、薄いと思います。この映画は、講談社が、創業70周年を記念し、1978年から、5年の歳月をかけて製作した超大作です。それを、2018年から、最新技術を駆使してデジタル化したのです。もし公開当時の古いフィルムのままだったら、もう傷んでしまい、40年以上たったいま、映画館で観ることは難しかったかもしれません。製作自体もさることながら、デジタル化も、まさに講談社の偉業と呼んでよいと思います」

 なお、8月15日には、もう1作、出版社が製作した“戦争映画”が、地上波の日本テレビ系列で、21時から全国放映される。新潮社が製作したアニメーション映画「火垂るの墓」(高畑勲監督、1988年)である。「東京裁判」とともに、次の世代に伝えていきたい名作映画である。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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