【終戦80年】の「8月15日」に観てほしい珠玉の名画…4Kで復活した伝説の「反戦映画」に「4時間37分」の大作ドキュメンタリーも
看護学生の視点で描かれた「長崎―閃光の影で―」
ただしこの映画、あくまで、井上=蓬莱作品を参考原案に、「史実」を映像化したもので、いわゆる“戯曲の映像化”ではない。
「この原案戯曲は、〈上官〉〈新兵〉のほか、〈ガジュマルの木の精霊〉、〈ヴィオラ奏者〉(舞台袖)の4人だけで演じられる、半ば幻想的な舞台です。それを参考に劇映画にする以上、相応のリアルな翻案が必要ですが、それが、とてもうまくいっています。堤真一の〈上官〉と、山田裕貴の〈新兵〉が、たいへんな熱演です。特に堤真一は、いまでは少なくなった典型的な“昭和の男”の顔つきで、迫力満点。また、舞台ではあくまでイメージとして表現される“飢え”が、具体的なヴィジュアルとして描かれ、説得力も抜群です」
舞台版「木の上の軍隊」は、その後もこまつ座で再演されている。ちなみに、3部作の〈ナガサキ〉は、これも井上ひさしの構想をもとに、2015年、山田洋次監督によって「母と暮せば」として映画化され、その後、こまつ座によって舞台化された。
その〈ナガサキ〉を舞台にした新作映画が、8月1日全国公開の「長崎―閃光の影で―」(松本准平監督)だ。原爆投下直後の長崎で救命医療に奔走した日本赤十字社の看護学生の手記『閃光の影で 原爆被爆者救護赤十字看護婦の手記』が原案である。まだ少女といったほうがよい、若い看護師学生の視点で、長崎の悲劇を描く作品だ。
「この映画は、原爆の凄惨さよりも、いかに乏しい医療体制下で看護学生たちが奔走したかを描く、一種の青春映画です。主演の少女3人(菊池日菜子、小野花梨、川床明日香)が、それぞれ、純朴、軍国少女、カトリック信者とちがった性格に描かれており、あの時代を重層的に描くことに成功しています」
実は、本作のプロデューサーのひとり、鍋島壽夫は、1988年の映画「TOMORROW 明日」(黒木和雄監督)のプロデューサーである。この映画は、長崎に原爆が投下されるまでの24時間を、三人姉妹の家族を中心に描いた名作で、この年のキネマ旬報ベストテン第2位を獲得している(第1位は「となりのトトロ」)。あれから37年、今度は、原爆投下後の長崎を描くことになったのだ。
映画の後半では、「TOMORROW 明日」で次女を演じていた南果歩が、遺児となった赤ん坊を育てる孤児院の保母役で登場し、往年の映画ファンを感動させてくれる。
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