【終戦80年】の「8月15日」に観てほしい珠玉の名画…4Kで復活した伝説の「反戦映画」に「4時間37分」の大作ドキュメンタリーも
4Kでよみがえった、2大反戦映画
ところで、終戦80年を期して、半世紀以上も前の洋邦2本の名作反戦映画が、4K版となって、公開されている。
まず、1959年の「野火」(市川崑監督)。
「大岡昇平が1951年に発表した戦争文学の最高傑作が原作です。フィリピン・レイテ島で、肺病のために部隊を追い出され、野戦病院でも食糧不足で入院を拒否された兵士が主人公です。行くあてもなく山中をさまよい、次第に、飢えと追い詰められた戦況とで、常軌を逸していく姿が描かれます」
主役は、飄々とした役柄が多かった、船越英二(船越英一郎の父)が起用された。本来、ふっくらとした体格だったが、絶食してガリガリに痩せて撮影に臨んだ。撮影開始直後、栄養失調で倒れこんでしまったほどだった。
「冒頭、視線も虚ろな船越英二の顔がアップで突然映るのですが、当時の試写室で、関係者が言葉を失ったとの伝説が伝わっています。それほど容貌を変えた入魂の演技で、当時の映画賞主演男優賞を総なめにしています」
この映画はモノクロのうえ、荒涼とした野外ばかりの画面なので、いままでの古いプリントでは判然としないカットが多かった。
「それが4Kとなったことで、実は、呆然となるほど美しい画面構成だったことにあらためて気がつきます。たとえばガイコツのような船越の顔は、よく観ると、もう汗を絞っても出ないほど乾ききった肌になっていることが如実にわかり、ちょっとゾッとします」
肉体も精神も、極限まで追い詰められた時、人間は、どのような表情になるのか。人肉食への接近もふくめて、戦争の恐ろしさを、独特の視点で描いた名作だ。
そしてもう1本の4K版による再公開が、1971年のアメリカ映画「ジョニーは戦場へ行った」(ダルトン・トランボ監督)だ。
「ダルトン・トランボは、『ローマの休日』の匿名シナリオでも知られる名脚本家ですが、左翼系の反戦作家でもありました。そんな彼が、戦時中に発表し、事実上の発禁になっていた反戦小説を、戦後の1971年になって自ら映画化した作品です」
青年ジョーは、第1次世界大戦に出征、戦地で被弾し、両手両足ばかりか、五感も失い、肉塊となって帰還する。軍は、一種の実験台としてジョーを生かしつづける。目も見えず、口もきけないジョーは、病室内の気配を察し、なんとか自分の意志を伝えようと、もがきつづけて……。
あまりの過酷な設定に、「二度と観る気になれない、トラウマ名作」とも呼ばれた。
「この映画は、現実の病室がモノクロ、ジョーの脳内で展開する幻想がカラーなんです。薄暗いモノクロ病室が、4Kとなったことで、隅々まではっきりわかります。また、カラー場面は美術デザイン的にたいへん凝っているのですが、これまた、とてもユニークな色彩構成であることに驚くと思います」
「野火」と「ジョニーは戦場へ行った」――ともに極限状況の人間の姿を描いている名作である。
[3/4ページ]


