浜松では「殺人事件」も発生…「ガールズバー」で重大トラブルが頻発する理由 “風営法”の盲点、“未熟な経営体制”、そして

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風営法の適用がないために…

 クラブなどと異なり、ガールズバーは風営法上の「接待飲食等営業」に該当せず、営業時間に制限が設けられていない。このため、深夜から明け方にかけて営業する店も多く、女性従業員が終電後に、あるいは始発電車を待って一人で帰宅することも珍しくない。

 多くのクラブでは深夜営業に備え、女性スタッフ向けの「送り」と呼ばれるシステムがある。店側が準備したバンなどの車両で、自宅まで送り届けるものだ。しかし、ガールズバーではそうした仕組みは一般的ではない。

 浜松市の事件は午前1時頃の発生だが、クラブなどは通常、この時間帯に客を入店させない。それまでの営業で飲酒したスタッフが酔っていることも多く、防犯意識は低くならざるを得ないだろう。

 拡大しつつあるガールズバーだが、背景には「安価」と人手不足が挙げられる。高級クラブなどは高単価を前提とし、豪華な内装や手厚い人員体制を必要とする。一方で、近年は少子化やSNSの発達による「ギャラ飲み」の普及などで、従業員の確保が困難になっている。

 その間隙を突くように、低コストで開業可能なガールズバーが増加。1時間3000円~4000円という手頃な価格帯を売りに、若年層の客を中心に人気を博している。しかし、カウンター越しに客とスタッフが密接に接する構造や、狭い空間での運営は、いざというときの危機管理を難しくしている。

 また、価格が手頃なのは基本料金だけで、実際はそれでは済まないのが普通だ。女性に飲み物をおごったり、ボトルを開けたりすればあっという間に数万円に達する。飲みなれた客ならばそれも承知の上だが、収入が追い付かない男性がハマれば生活が破たんの危機に瀕することもある。

 ガールズバーに限ったことではないが、近年は従業員(クラブだとキャスト)と客がSNSで容易につながり、店外での接点も増えている。人間関係の距離が縮まりすぎることで、恋愛感情や金銭的なもつれ、ストーカー被害へと発展するケースも少なくない。

 浜松市のケースでも、殺人容疑で送検された山下市郎容疑者(41)が事件の数日前、死亡した従業員の女性と来店前に食事をしていたことが報じられている。女性は体調不良を訴えてその日は欠勤し、連絡が取れなくなったという。

 さらに、クラブなどのようにボックス席での接客が基本ではなく、他の客の勢いに釣られた過剰な飲酒や暴力的な振る舞いが発生しやすい環境も相まって、トラブルは複雑化している。また、店によっては風営法上、カウンター越しの会話が基本であるはずなのに、時間が遅くなり酔いも回ってきたところでは客の隣に座り、接客する店も散見される。

 こうした店舗があることは当局でも把握しているので、間々、そういった店に指導が入るケースがある。つまり、非常にグレーゾーンであると共に境目が分かりにくくなってきてしまっているのが現状なのだ。

新規参入しやすいが…

 そしてガールズバー急増の背景には、法規制が緩く、少人数・少資本で始められるという参入のしやすさがある。しかしその分、経営者や店長がトラブル対応や安全対策に不慣れな場合も多く、今回のような凶行に対しても、店側で被害を最小化できる仕組みが整っていなかった可能性が高い。

 事実、サラリーマンをしながらオーナーとして資金を提供し、二足のワラジで経営している店も少なくない。水商売経験を経て、客あしらいなどを勉強せずともあくまで「BAR」という形態をとっている以上、風営法上の店のようなキャストと客の関係性を考えずとも、何となく成り立ってしまうのがガールズバーの良いところでもあり悪いところでもあるのだ。

 実際、ガールズバーは「BAR」の要素よりも接客の要素が大きく、隣の席につかないだけで、クラブ的要素が多く、当然ながら意識してか無意識か友営(友達感覚の営業スタイル)から色営(色恋する営業スタイル)に発展するケースもある。

 今回の浜松市の事件は、ガールズバーが抱える脆弱性を極限的な形で突きつけた。風営法の盲点、未成熟な経営体制、女性スタッフの安全管理の欠如――これらが絡み合い、悲劇を招いてしまったのだと言える。

〇久田将義/編集者。主な著書に「特殊詐欺と連続強盗」(文春新書)、「生身の暴力論」(講談社現代新書)など。「TABLO」編集長。

デイリー新潮編集部

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