「解決できる事件を警察内部の人間が潰してしまった」…発生から30年「ナンペイ事件」を追い続けた捜査員が問う“警察の本分”

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「警察の本分」

 最後に原は決然とした表情で語った。

「錦糸町ルートから、『モトムラ』を割り出すのは時間の問題でした。本当に後ろ髪を捉え、あと一歩のところだったんです。その後、Kと同郷の女性と知り合い、貴重な話を教えてもらえていたのです。彼女曰く“2000年ころ、中国の地元でKの親戚からこう聞かされました。『Kのグループが八王子の強盗殺人をやった。事前の情報と違って、事務所に従業員が3人も居たので、実行役はパニックになり、射殺してしまった』と”。私は彼女から“私たちの出会いは運命的だった。被害者たちのお導きがあったからだよ”と言われたとき、涙が溢れました。そして、彼女の手配で福清市の受入れ組織を斡旋してもらい、Kの出身地の調査活動も終えました」

「それなのに、事件を解決できる大きなチャンスを逸してしまった。両国の司法当局が苦労の末、カナダから重要参考人の中国人を連れてくるのだから、八王子特捜本部まかせにせず、刑事部を挙げて対処すべき事案ではなかったのか。私がいつも殺人事件の捜査で一番に思うのは遺族のことです。『遺族の悲しみや怒りは筆舌に尽くしがたいものがある。まさに想像を絶する苦しみだ』という重い事実です。真実をどん欲に究明し、事件を解決することが、遺族の悲しみを少しでも和らげる道です。遺族のために、懸命に真実を発見しようとする姿勢こそが、警察の本分ではないでしょうか」

「警察の本分」――原のこの重い言葉は捜査現場の後進たちに届くだろうか。

「いずれ警視庁が捜査することを想定して、接触していない関係者がいます。もし、再捜査することになった場合は、捜査が必須の人物たちです。もはや解決するためには、とてつもなく高く、分厚い壁がたちはだかっています。その壁をぶち破るためには、並々ならぬ覚悟が必要です。それでもやり遂げなければならない使命が、担当捜査幹部の双肩に課せられています。健闘を祈ります」

第1回【犯人逮捕まであと一歩だった…「八王子スーパー強殺事件」発生から30年 全面解決目前に捜査を潰した捜査員たちの大罪】では、平成の日本を震撼させた凶悪犯罪に警視庁の捜査員がどう対峙したのか、その知られざる背景に迫っている。

デイリー新潮編集部

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