「解決できる事件を警察内部の人間が潰してしまった」…発生から30年「ナンペイ事件」を追い続けた捜査員が問う“警察の本分”

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「元気でさえいてくれれば……、それだけで良かった」

 凶弾に斃れた矢吹恵さん(享年17)の母親がかつて追悼式で語った言葉である。

 彼女が在学していたキリスト教系の桜美林高校では毎年、命日に合わせた7月に当時の教員や同級生らが集まり、追悼礼拝が行われている。事件を風化させまいと、賛美歌を歌い、黙祷を捧げ、故人の思い出を語り合う。

 保育士になるのが夢で、ピアノを習っていた矢吹さん。DNA鑑定などの科学捜査技術が進歩したこともあり、両親や親友らは諦めることなく、犯人逮捕の一報を待ち続けている。【鹿島圭介/ジャーナリスト】

 第4回【「スーパーナンペイ事件」捜査員が打ち明ける“瀬戸際の交渉”…カナダ在住「疑惑の中国人」を日本に連行した「ミッションインポッシブル」とは】からの続き

「平成の三大未解決事件」に数えられる「八王子スーパー強殺事件」、いわゆる「ナンペイ事件」の捜査に当たった、当時、警視庁捜査一課ナンバー2の理事官だった原雄一(68)。疑惑の男「モトムラ」を追うなかで、この男と接点のあるカナダ在住の中国人K・Rの存在が浮上する。Kを日本に連行するという前代未聞のオペレーションは、原の粘り強い交渉が実を結ぶ。しかし、この重大局面で原は異動となり、取り調べから外されてしまう。

 Kの引渡しには、八王子特捜本部の係長以下の捜査員、通訳、警察庁職員がカナダに飛んだ。地元の検察当局からKの身柄が引き渡されたのは2013年11月のことだった。

 カナダ側との協議の際、「日本側は、K・Rを安全に日本に連れていき、旅券法違反の処理が終わったら安全に帰国させる内容に終始していた。八王子事件の解決など、毛頭考えていなかった」と同行した捜査員たちが語る。

 耳を疑う内容だ。はなから腰が引け、やる気のない様子だった。

 また、この場に捜査責任者である管理官はいなかった。渡航を拒否し、この事件の捜査を他人事のように傍観していた。

 旅券法違反で逮捕され、八王子署に護送されたK。刑事の取り調べが開始された。捜査員の追及に対し、Kはどう反応したか。

「時間が経っていて、わからない」

「何も知らない」

「事件も八王子の地名も知らない。行ったことがない」

 予想どおり、全否定を繰り返し、後はダンマリを決め込む。もはや原のもとには何の連絡もなかった。

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