「解決できる事件を警察内部の人間が潰してしまった」…発生から30年「ナンペイ事件」を追い続けた捜査員が問う“警察の本分”
「奴が八王子のスーパーの事件の実行犯で間違いない」
一方、当初、警察捜査を批判していたKの弁護人が、警察の悠長な取調べに呆れてしまい、事もあろうか逆にKを追及していた。
そして、Kに対し、「知っていることは正直に話しなさい」と諭していた。
追及に使える材料は充分にあった。Kがカナダに居るとの情報を特捜本部にもたらしてくれた元仕事仲間Wはこんな証言までしていたのだ。
〈実は、自分はKに頼まれ、この「モトムラ」の世話をすることになり、会ったことがある。奴が付き合っていた台湾人の彼女ともね。彼女は錦糸町のスナックで働くホステスで、その店でも「モトムラ」と何度も落ち合った〉
〈ある時、「モトムラ」から犯罪に使う車の調達を依頼された。その時、八王子の車屋に連れて行こうとしたら、奴の顔色が変わり、こう言ったんだ。“昔、八王子でデカいヤマを踏んだことがある。未解決の事件だ”と。それ以上、奴は話そうとしなかったが、すぐにスーパーナンペイ強殺事件のことだと分かった。“八王子の強殺”で“未解決”なら、思いつくのはそれしかないでしょう〉
〈「モトムラ」は八王子に行くのを嫌がっていた。でも、そこの車屋が一番使いやすいと説明すると、渋々同行した。当日、八王子の街中に入ると、あたりをキョロキョロうかがって見渡し、防犯カメラがないかどうか警戒してチェックするなど、明らかに挙動不審だった。奴が八王子のスーパーの事件の実行犯で間違いない〉
ここまでの証言を得ていたのである。苦労の末、カナダから日本へKを引き渡してもらいながら、解決への意欲が乏しい捜査幹部らが未解決の重い扉をこじ開けるチャンスをみすみす潰してしまったのだ。もし遺族が内情を知ったら、どう思うだろうか。その絶望感、暗澹たる思いは察するに余りある。カナダとの外交問題にも発展しかねない不祥事案である。
「代理処罰」の可能性
発生から30年を機に今一度、適切な体制でKへの再捜査に臨めないものだろうか。時効はなくなっているのだから。
Kはトロントでもまた麻薬ビジネスに関与しているらしい。カナダ当局に情報提供し、違法薬物の密売で逮捕させ、その捜査の中で八王子の事件も追及してもらう。あるいは、警視庁で八王子の事件がK・Rの犯行であることを立証して、代理処罰を要請することも考えられる。簡単ではないが、不可能ではない。
代理処罰は、まさに原が特命捜査の責任者としてコールドケースを扱う捜査一課の理事官時代、93年の池袋女性殺害事件で繰り出した手法だ。母国のタイに逃亡していたタイ人被疑者を、タイ国刑法に則り代理処罰を要請した。タイ国刑法では時効ギリギリの逮捕となったが、日本捜査史上初めて、日本の捜査員が外国の裁判所に証人出廷して被告人とやり合い、有罪判決を勝ち取ったのだ。
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