捜査線上に浮上した「中国人」…強盗団リーダーが明かす「ナンペイ事件」の裏側 「強盗は少ない人数でやると失敗する。だから、失敗したんだ」
浮上した「謎の中国人」
武田の証言はこう続いた。
〈Kは僕にこう打ち明けた。“八王子のスーパーの強盗殺人。知らない人はいないでしょう。あれは自分のグループがやったんだ”と。しかも私にだけではなく、何人か仲間内でいる場所で他の人間にも同じことを話していたよ。Kの福建省のグループが八王子の事件をやっているのは間違いないですから。そのグループの中に実行犯もいますよ。Kは事件のすべてを知っています〉
武田は、Kから強盗仲間を何人か紹介されたことがあった。
〈その中にKと同じ郷里の中国人がいた。Kは、スーパーの売上金が一番多く金庫に保管される日が日曜日であることを知っていた。しかも、こう話してもいた。“事前の情報では、閉店後の夜間は、スーパーの事務所には従業員が一人しかいないと聞いていた。それなのに、当日行ってみると、情報と違っていた。強盗は少ない人数でやると失敗する。だから、失敗したんだ”と〉
刑事部幹部の中には、武田が死刑延期で延命を狙って虚偽の証言をしているのではないかと怪しむ者もいた。しかし、武田がKと行動を共にしていた日本や中国での足取りを辿ると、証言通りに裏付けが取れた。また自らに不利となる未解決の余罪も申告し、それらの詳細もことごとく裏が取れた。原は確信した。Kと八王子の事件との関連について、武田が供述している証言は事実だ、と。
前述の通り、Kは名古屋で武田と日中混成強盗団を結成する前、福建省出身の同郷の中国人らと関東一円で強盗を繰り返していた。その中に実行犯もいたものと見られている。
口紅のついた吸い殻
また、これまでの捜査で、事件当時、スーパー「ナンペイ」の店長が、若い中国人女性と付き合っていたことが判明している。事務所にも何度も遊びに来ていたといい、金庫のありかも分かっていた。この中国人女性は事件後、店長の前から忽然と姿を消した。特捜本部は事情を聴こうと行方を追ったが、未だに所在を掴めていない。事務所には11本のタバコの吸い殻が残されていたが、口紅のついた吸い殻1本だけが今もなお、誰の物か特定できずじまいだという。この中国人女性のものだったのだろうか。Kはこの「店長の彼女」から、金が容易に強奪できる店として、スーパー「ナンペイ」の情報を得たのではないか。
そもそも矢吹さんと前田さんを射殺したやり方、背後から後頭部に銃弾を撃ち込む残忍な手法は、中国人特有の“処刑”の仕方だという。あらゆるピースのベクトルが「中国人強盗団」に向かっていた。
武田の取り調べを機に、捜査当局のターゲットはKに絞られていった。だが、この時点ですでにKの姿は中国からも消えていた。覚醒剤での武田逮捕の報に接し、慌てふためいた彼は、自身にも捜査の手が及ぶと恐れ、間一髪、故国から脱出していたのだった。ちなみに大連での原による聴取の翌2010年、武田の死刑は執行された(当時67)。
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