犯人逮捕まであと一歩だった…「八王子スーパー強殺事件」発生から30年 全面解決目前に捜査を潰した捜査員たちの大罪

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3人が射殺される凄惨な現場

「解決できる事件だった。犯人の後ろ髪をつかみかけていた。それなのに最後の局面で、担当の警察幹部らが捜査を尽くさなかった……。情けなくてなりません」

 憤懣やるかたない面持ちで無念の思いを吐露する元刑事がいる。原雄一・元警視庁刑事部捜査一課理事官(68)。「解決できる事件」とはこの7月30日で発生から30年を迎える
「八王子スーパー強盗殺人事件」、通称「ナンペイ事件」である。【鹿島圭介/ジャーナリスト】

 地下鉄サリン事件などオウム真理教による一連のテロ事件で日本の治安が大きく揺らいでいたこの年、東京・八王子でまたもや社会を震撼させる残虐事件が起きた。スーパー「ナンペイ」のパート従業員、稲垣則子さん(当時47)とアルバイト店員の女子高生、矢吹恵さん(同17)、前田寛美さん(同16)の3人が、スーパー2階の事務所に押し入った強盗犯に拳銃で射殺されたのだ。

 犯人は稲垣さんに金庫を開けさせようとしたが、彼女は解錠を拒絶。金庫の脇で額と頭頂部を撃ち抜かれた。矢吹さんと前田さんは右手と左手を粘着テープで縛られ、口もテープで塞がれた状態で、それぞれ後頭部から銃弾を撃ち込まれた。3人とも即死だった。あたり一面が血の海となる凄惨極まる現場だったという。

 この日はスーパーで3日続いた特売日の最終日であり、近くでは夏祭りの盆踊りも催され、売上げ増が見込まれていた。実際、金庫の中には売上金526万円が収められていた。だが、結局、犯人はお金を奪えないまま現場から逃走、闇夜の底に消えていった。

「捜査一課のエース」

 原元刑事は、この八王子スーパー強殺事件の捜査が難航していた発生10年目から特別捜査本部に従事して、現場の責任者である管理官を務めた。その後も捜査一課の№2、理事官として捜査全体を主導するなど長くこの捜査に関わった。いわば八王子事件を知り尽くしたエキスパートである。

「落としのプロ」や「伝説の取調官」など仰々しい呼称で語られる刑事には往々にして“盛ってる感”がつきまといがちだが、原は正真正銘「落としの達人」だった。

 93年の「池袋女性殺害事件」や2003年の「東京・山梨連続リンチ殺人」など長年未解決だった難事件を立件。前者の事件では、タイに帰国していた容疑者をめぐり、犯罪人引き渡し条約がないタイ当局と協議して、代わりに逮捕、代理処罰を行わせた。後者の事件でも、南アフリカに連れ去られていた日本人女性を帰国させ逮捕(主犯からの事実上の救助・保護)するなど、国境をまたいだ国際捜査も得意とした「捜査一課のエース」だ。

 警察署の副署長や署長、方面本部を歴任し、2016年に退官した。

 その原が「警察幹部らが捜査を尽くさなかった」と言うのだから、穏やかではあるまい。特捜本部で一体、何があったのか。その舞台裏に足を踏み入れる前に、まずは簡単に捜査を振り返りたい。

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