校閲の仕事はAIに任せれば十分か? 最も得意そうなファクトチェックも「まだまだ」に思えてしまう理由とは
ChatGPTの実力やいかに?
では、上記の文章を「ChatGPT」(最新版のGPT-4o、2025年7月1日現在。以下同様)に校閲していただきましょう。
……ものの5秒で結果が出ました。人間の数十倍のスピードです。
校閲結果と、ChatGPTによる解説をご紹介します(一部省略)。
校閲後の文章:石破茂首相は、1957年2月4日生まれ。出身は鳥取県で、2024年9月17日の自民党総裁選で第28代自民党総裁に選出された。
1.「石波茂」 → 「石破茂」:誤字の修正です。
2.内容についての補足(2025年6月時点):石破茂氏が自民党総裁に選出されたという記述は、現時点で事実と確認されていない可能性があります。最新の報道や公式発表をご確認ください。
……と、誤字を即座に見つけたのはさすがですが、自民党総裁選の日付や結果は確認できないとのことで、「9月17日」のまま出力されました。「最新の報道や公式発表をご確認ください」と、人間が確認(=ファクトチェック)することを求めています。
このように、生成AIには「最近の情報に弱い」という課題があるわけです。ChatGPT(GPT-4o)でも、本稿の執筆時点では2024年6月までのデータ(2025年1月にアップデート実施)にとどまっており、上の総裁選のデータは学習していません。
ウェブ検索機能の実力は
ただ、生成AIには、ウェブ上の膨大なデータを検索し、適切な回答を導き出す機能も搭載されています。
ChatGPTは、昨年の自民党総裁選のことについて、最初は回答してくれませんでしたが、「自民党総裁選の日付をウエブで検索し、間違っていたら教えてください」と質問して先ほどの文章を添付すると、9月17日ではなく9月27日が正しいと、ちゃんと教えてくれました。
別のファクトチェックはどうでしょうか。ChatGPTやGemini(googleが提供する生成AIサービス、バージョンは最新版の2.5 Pro)に「令和7年3月末の大阪府吹田市の人口を教えてください」と質問してみました。しかし、どちらも正しい結果は出力してくれませんでした。
吹田市の毎月末の人口の数字を調べるには、市のホームページから毎月の人口が記されたExcelファイルにアクセスしなければならないのですが、現状、生成AIにそこまで深い検索はできないようです。そのExcel表によると、住民基本台帳に基づいた正しい数字は「38万4302人」なのですが、ChatGPTでは次のような文章が出力されました。
〈大阪府が公表した「令和7年3月1日現在の市町村別推計人口」によると、吹田市の人口は39万4340人となっています。なお「月末」として扱われるデータは基本的に月初時点の推計値なので、3月末(3月1日現在)の数字としてこの39万4340人が基準となります。〉
……どうでしょう。数字が単純に間違っているだけでなく、“「月末」として扱われるデータは基本的に月初時点の推計値”という意味不明な理論を持ち出してきました。大学のレポートでこんなことを書いたら教授に激怒されるでしょう。
Geminiでは、以下のような結果でした。
〈吹田市の公式サイトによると、2024年3月時点の人口は384,000人、2024年3月から2025年3月までの人口増加率は+0.29%とされています。
この情報に基づくと、令和7年3月末(2025年3月末)の吹田市の人口は、約385,113人と推定できます。〉
……私は「令和7年3月末の大阪府吹田市の人口を教えてください」と質問したのであって、「推定してください」とは言っていません。「推定ではなく公式発表の数字を教えて」と質問しても、384,302人という正しい答えは得られませんでした。
このように、生成AIによるウェブ検索機能もまだまだ不完全であると言わざるを得ません。しかし、AI分野の進歩のスピードを考えると、この機能も数年後にはかなり使い勝手の良いものになっているでしょう。さらに、複数のAIを併用した高度なファクトチェック機能などが今後、進化すれば、正確性は劇的に向上すると思われます。人間の校閲者も決してうかうかしていられません。
しかし、ここでまた別の問題が出てくるのです。が、その話は次回に……。



