高まる“石破おろし”に「総裁を変えたぐらいで自民党の票は戻らない」と識者が断じる理由…頼みの「組織票」は先細りで“結党以来の危機”との声も

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 中曽根康隆氏は1982年生まれの43歳。父は参議院議員で、外務大臣などを歴任した中曽根弘文氏(79)、祖父は首相を務めた故・中曽根康弘氏だ。康隆氏は2017年の衆院選に自民党から出馬して初当選。その後、群馬1区の公認を得て当選3回、昨年11月には自民党の青年局長に就任した。そして康隆氏は7月25日、森山裕・幹事長(80)のもとを訪れた。(全2回の第1回)

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 担当記者は「中曽根康隆氏は森山氏に青年局の申し入れ書を提出しました」と言う。

「今回の参院選で自民党は歴史的な大敗となりました。青年局の申し入れ書では特に若年層が自民党を支持しなくなっていると憂慮。参院選の責任を取り、首相である石破茂・党総裁を筆頭とする執行部に対し、事実上の“退陣要求”を突き付けました。さらに石破さんの総裁としての責任を問うため、党内では両院議員総会の開催を求める署名活動が行われていました。この件に関しても開催に必要な3分の1の署名が集まったと発表され、いわゆる“石破おろし”の動きは加速する一方です」

 石破総裁には“退場”していただき、総裁選を実施して新総裁=新首相を選出。時間を置かずに新たなトップのもとで解散総選挙に踏み切り、過半数の議席獲得を目指す──自民党内で“石破おろし”の風が吹き荒れている理由だ。

 ところが、政治アナリストの伊藤惇夫氏は、この“勝利の方程式”が今の有権者には通用しない可能性を指摘する。自民党に今も吹く強い逆風は総裁を変えたぐらいでは収まらないというのだ。

自民党が崩壊する可能性

「今回、自民党の関係者は参院選の敗因として『業界団体の動きが極めて鈍かった』と口を揃えました。なぜ自民党は選挙に強かったのか、それは業界団体、役所、企業の3組織が鉄のトライアングルで結束し、正真正銘の“組織票”をかき集めてきたからです。ところが、今回の参院選で業界団体は全く票を出さなかった。これは“失われた30年”の結果でしょう。給与が上昇せず、インフレと税金、社会保障の負担に苦しむ現役世代が自民党に愛想を尽かしたように、業界団体も景気が全く上向かないので自民党支持から遠ざかったのです。この衝撃は大きく、まさに自民党の足元が揺らいでいる状態になっています」

 2001年、日本の国民一人あたりの名目GDPは世界5位だった。ところが2024年には38位まで転落してしまった。

「気がつけば日本の高度成長を支えてきた先端技術分野は壊滅状態に陥っています。日本だけで半導体を作ることは不可能になり、今では台湾の助力が必要です。この30年間、自民党には国家戦略や成長戦略が全く描けませんでした。業界団体を含む有権者の怒りは非常に強く、自民党の総裁=首相を変えたからといって支持が戻るような甘い状況ではないでしょう。今の自民党は結党以来の危機に直面していると言って過言ではありません」(同・伊藤氏)

 自民党危機説、自民党崩壊説はアカデミズムの世界からも指摘されている。東京大学教授で行政学が専門の牧原出氏は参院選での自民党大敗に関して朝日新聞の取材に応じ、その見解が7月22日の朝刊に掲載された。(註)

 牧原氏は《自民党が置かれている状況は深刻》と述べ、《次の衆院選に向けて、自公政権は「政権交代なきまま自己崩壊」という道を歩むのかもしれません》と自民党にとっては最悪のシナリオを提示した。

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