激混みの「ルーブル美術館」にスマートに入場するただひとつ?の方法(古市憲寿)

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 パリのルーブル美術館はひどく混雑することで有名だ。入場には保安検査があり、いつも長蛇の列ができている。ChatGPTに並ばずに済む方法を聞いたら「Amis du Louvre(ルーブル友の会)」を案内された。

 要は通年チケットで、値段は95ユーロと高額なのだが、専用の入口があるのだという。「友の会」サイトはフランス語だけだったが(こういうのがフランスっぽい)、自動翻訳があるので全く問題ない。すぐにデジタル会員カードが発行できた。専用ゲートはやや分かりにくい場所だったが、これもGPTに聞けば写真付きで教えてくれる。実際、ゲートはガラガラで、すぐ館内に入れた。通常の入館料が22ユーロ(2026年から非ユーロ圏は30ユーロ)なので元が取れるかは微妙だが、行列に並ばなくていいならまたふらっと来てみようかなとも思う。

 ルーブル美術館はオーバーツーリズムの象徴のような場所だ。世界各地の観光地に行って分かったのだが、オーバーツーリズムとは観光客の分散に失敗している状態のこと。例えば世界一の観光地といえるベネチアも、サン・マルコ広場やメルチェリーエ通りはにぎやかだが、ほとんどのエリアはガラガラ。

 ルーブル美術館も同様である。やはりモナリザはすごい。展示室はラッシュ時の通勤電車ほど混雑する(それでも埼京線ほどではない)。とても美術品を鑑賞するような空間ではない。「モナリザを見る人々」という体験型アートに参加するようなものだ。ルーブルも分かっていて、館内の至る場所で「モナリザはこちら」という案内が大量に掲示されている。同じくらい「出口はこちら」の案内も分かりやすい。「どうせ君たちモナリザだけ見て帰るんでしょ」と、現実のニーズに正面から応えている。割り切っていて偉い。

 広大な美術館だ。実は、ほとんどの作品はゆっくりと鑑賞することができる。事前に許可を得れば、絵の具やキャンバスを使った模写も可能だ。モナリザ部屋とは別世界である。

 ところでパリは「自転車の街」へ改造の真っ最中だ。車道をどんどん自転車専用レーンに転換し、中心地から車を追い出そうとしている。もともと渋滞がひどかったが、車での移動はさらに不便となった。ルーブルからバスティーユ広場まで行こうとしたのだが、経路検索によれば車で30分。自転車なら11分、地下鉄なら10分だという。

 脱炭素と健康志向で、街から車を追い出すのは世界的なトレンドだ。しかし今年の夏は欧州も暑い。僕がパリにいた日も35度。その後、最高気温が40度に達した日もあるという。地下鉄はまだしも自転車での移動は辛い。日本も自転車専用レーンを増やそうとしているが、脱炭素の効果が出る前に灼熱の日が増えるのは必至。パリは街路樹を増やしミスト設置などで乗り切るつもりらしいが焼け石に水だろう。結局、30年後には自転車専用レーンは撤去されているのではないか。世界の模索は続く。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2025年7月24日号掲載

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