彼女との不倫密会は「健康診断みたいな感じ」 39歳夫が築いた“生き残り同士”の不思議な関係

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思いが一気に吹き出して…

 思えば彼が過去を自ら詳細に語ったのは、前職の社長と藍子さんだけだった。彼の心を開かせたふたりだった。

「藍子は、美容関係の会社を作って地道にがんばっていました。もう男には期待してないしさと笑う顔が、相変わらずチャーミングでした。藍子と話していると気が楽になる。『あのときは私も子どもだったなあと思うわよ。あんな浮気くらい許せばよかった』と言いながら、『でもさ、私の人生、本気で好きだったのはあんただけだから』って。体中の血が燃えたぎる感じがしました」

 彼女の手をとってカフェを出ると、近くのホテルに飛び込んだ。長年、心の奥深くに静かに密かに眠っていた藍子さんへの思いが一気に吹き出したのだろう。それを愛とは言えないのかもしれない。だが何もしないわけにはいかなかった。

「藍子は、今さらどうにもならないんだからやめよう、あんた結婚したんでしょって抵抗していたけど僕を抱きしめる手は温かかった。あとから『私たちじゃ、いい家庭なんてできないんだよね。でも私はあんたを求めてる』と彼女はせつなそうに言いました。僕もまったく同じ思いだった。ずっと一緒にいたら互いを破壊してしまうかもしれない。だけど一緒にいる時間が心を救い合えることもある。そんな関係なんだとわかったような気がしたんです」

「健康診断みたいな感じ」

 それから1年と少し、隆宏さんと藍子さんは数ヶ月に1度、密会を重ねている。妻に不審を抱かせないように念入りに準備をし、どこからつっこまれてもいいように言い訳を考えて、ふたりだけの数時間を過ごす。

「変ないい方だけど、藍子に会うのは健康診断みたいな感じです。日常生活にひずみがないかどうかチェックするような、そして“生き残り”の僕らが、その傷を広げていないかどうかの確認をするような。でも妻が知ったら、やはりただの不倫になる。だから絶対にバレないようにするしかないんです」

 似たような傷をもつふたりならではの絶妙な距離感があるのだろう。彼が心の均衡を保っていくためには、藍子さんとの関係が必須なのかもしれない。

「僕らはただ生きていくことだけが目標。生き残ったのだから生きなければならない。そう思えるようになっただけで上等だなと思っています」

 こちらを見すえた彼の目は、とても強い光を放っていた。

 ***

 世間的には不倫行為だが、つらい過去をもつ隆宏さんにとっては、生きていくために必要なことなのだろうか。彼の哀しい過去と半生については【記事前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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