彼女との不倫密会は「健康診断みたいな感じ」 39歳夫が築いた“生き残り同士”の不思議な関係

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初めての「生きていてよかった」

 彼は23歳、藍子さんは26歳だった。とりあえずお金がいるから店はやめないと彼女は言った。オレも働くよと言うと、彼女は『たとえば、あなたは昼間、アルバイトをして夜、大学に行ったらどうかな。社長さんにもそう言われたんでしょ』って。目先の生活費は自分が稼ぐから、僕にはもっと先を見ろと彼女は言うんです。僕のためにそんなことを言ってくれる女性がこの世にいるんだと思うと、藍子を一生離すまいと思いました」

 彼は、前職の社長に電話をかけて相談した。恋に落ちたことは恥ずかしくて話せなかったが、人生のスタートを切りたい。もし東京で知っている人がいるなら紹介してもらえないでしょうかと頼んでみた。

「社長は1日だけ待ってくれと言って、翌日電話をくれました。あちこち連絡をとって、ツテを探してくれたみたいで、電話しながら最敬礼しっぱなしでした」

 社長が紹介してくれたのは、東京と隣県の境目あたりにある中規模の工場で、仕事も彼が以前していた内容の延長線上だった。しかも、新しい職場の社長からは、経験者だから数ヶ月後にはチームリーダーを任せるとまで言ってもらった。

「涙が出ました。生まれて初めて、生きていてよかったと思った」

仕事は順調も、すれ違いの生活に

 スキルアップするために残業をしまくった。ある程度の時間以上は残業代が出ないから帰れと言われても、彼は社長に、それでもいいからもっと仕事を教えてほしいと頼み込んだ。

「決して頭がいいわけじゃないし、勉強したいわけでもないから大学進学はやめました。それより工場の仕事が楽しかった」

 周囲との関係も良好だった。いつでも腰の低い隆宏さんに意地悪なことを言う人間もいなかった。ただ、家には寝に帰るような状態だったから、藍子さんとはすれ違いの生活になった。

「藍子に仕事を変えてほしいと言いました。夜は一緒にいたい、と。でも藍子は『お金をためて早く家を買おう』って。彼女も家庭運がなかったので、まずは家という形がほしかったんだと思う。僕は家なんてどうでもいい、ふたりの時間がほしかった」

 若いふたりだから、1度すれ違うとなかなか修正がきかない。隆宏さんは寂しさのあまり、深夜、藍子さんが勤める風俗店の周りをうろうろしていたこともある。

「あるとき、何度か会ったことのある藍子の同僚から声をかけられました。『藍子はまだ仕事よ』と言われ、わかってるけどと答えたら、『飲みに行こうか』って。結局、その彼女と関係をもってしまい、それがバレて藍子に追い出されました。あのときの藍子の悲しそうな顔は、それから何度も夢に出てきた。僕の弱さが招いたことです」

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