彼女との不倫密会は「健康診断みたいな感じ」 39歳夫が築いた“生き残り同士”の不思議な関係

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【前後編の後編/前編を読む】「苦しくて目覚めると、母が馬乗りに…」無理心中を生き延びた少年時代の哀しい記憶 妹を失い、引き取られた家で受けた“静かな拒絶”

「僕は母子心中の生き残りなんです」。そう語る水田隆宏さん(39歳・仮名=以下同)の哀しい記憶は、小学2年生の夜、苦しさで目覚めたときに馬乗りになっている母の姿に始まる。両親は商店を営んでいたが、母は父の不貞を気に病み、隆宏さんの妹を道連れにして命を絶ったのだった。生き残った彼は父方の叔父夫婦に引き取られたものの疎まれ、中学卒業を機に寮のある工場に就職した。「消えてしまえばいい」と思い詰めるも、気にかけてくれた社長の存在が、彼を踏みとどまらせた。

 ***

 3年後、彼はかつて両親と暮らした東京にいた。工場はやめたが、社長にすべて話してみた。社長は男泣きに泣いて、「いつでも戻ってこい」と送り出してくれた。どこまでも人のいい社長だった。

 到着してから2日たっても、生まれ育った町に足を踏み入れることができなかった。

「怖かったんです。そこに行かなければ何も始まらないとわかっていても、怖くて行けなかった」

 母の実家も都内にあったが、まずは生まれた町が先だと決めていた。

「何を思ったのか自分でもよくわからないけど、2日目の夜に風俗店に行きました。そのとき相手をしてくれた女の子となぜか気が合って話し込んでしまった。彼女が、『うちの親、ふたりとも自殺しちゃったんだ』と言ったんですよ。同情をひくための作り話かと思っていたら、彼女は『あんた、同じ匂いがする』って。僕より年上だったと思う。その言葉につられて僕も話してしまった。藍子と名乗った彼女はずっと僕を抱きしめてくれました。その日は『もう仕事上がるわ、ちょっと待ってて』と言って、一緒に焼肉屋に行って、彼女のアパートに泊めてもらって……。あの日が僕の転機でしたね」

生まれ育った町へ行くと…

 翌日、生まれ育った町へ行った。両親が営んでいた店はすでになかった。それどころか周りの商店街じたいがなくなり、いくつかのマンションが建っていた。そのまま電車に乗って、母親の実家に行ってみると、そこは更地になっていた。

「過去がなくなったんだと思いました。決して快い感情ではないんだけど、僕は今、生まれたと思えばいい。人生のスタート地点に立ったと思うしかなかった。無理かもしれないけど、そうやって生きていくのがいちばんいいんだと自分に言い聞かせました」

 前日の風俗店に行って、藍子さんを指名し、その日のことを話した。彼女は「よかったね。あんたを縛るものは何もないよ」と言ってくれた。隆宏さんは、「一緒に暮らさないか」とつぶやいた。

「あたし、ろくでもない男とつきあってるからさと彼女は苦笑しました。別れればいい、一緒に人生のスタート地点からやり直そうと彼女を誘いました。彼女なら、補いあってうまくやっていけると思ったんです」

 叔母のことがあったので、彼は女性が苦手だった。隣に女性がくると空気が変わるような気がして身動きがとれなくなるのだ。だが藍子さんは大丈夫だった。自分の一部のように思えた。

「その日、彼女と一緒にアパートに行ったら、男が来ていました。僕が藍子と一緒になるので別れてくださいと言ったら、ボコボコに殴られ、あげく持ち金100万円をとられました。でも根っから悪いやつでもなかったみたいで、『2度と藍子に会わないと一筆書いてほしい』と言ったらちゃんと書いたんですよ。『あいつはたぶん、もう私には飽きてたの。別の女のところに行くと思う。だからあんなお金渡す必要なかったのに』と彼女はあとから泣いていたけど、かえってすっぱり別れられていいじゃないかと言いました」

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