東大在学中にデビュー、作家・浅野皓生が回顧する「デュエル・マスターズ」に捧げた日々と、淡い別れの記憶
大昔のカードを、どうやって手に入れたのか
東京大学法学部に在学しながら、2022年、「テミスの逡巡」で東大生ミステリ小説コンテスト大賞を受賞、さらには24年、『責任』で第44回横溝正史ミステリ&ホラー大賞優秀賞を受賞した浅野皓生さん。幼き日、トレーディング・カードゲーム「デュエル・マスターズ」に捧げた日々と、淡い別れの思い出とは。
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小学生の頃、デュエル・マスターズというカードゲームが好きだった。何がきっかけではまったのかは全く覚えていないが、パソコンの横にあるカードに目をやれば、何に引かれたのかは分かる。クリーチャー名は「結界の守護者クレス・ドーベル」。光文明の主要種族たるガーディアンらしく、ブロッカー能力を持つ。イラストの精緻な迫力は言うまでもない。僕はこういう、子どもにも分かりやすい親切な格好よさに魅せられたのだ。
ところでカードの右下には、発行年を示す2005という数字がある。しかし僕がデュエマのカードを集めはじめたのは小学2年生のとき、2009年のこと。なら僕は、当時からしても大昔のカードを、どうやって手に入れたのか……。
おまけのレアカード
僕の住む下北沢には、2丁目3番地という中古玩具の専門店があった。
南口商店街の入口の手前、郵便局の真隣。シンボルのペンギンが躍る看板の下、どこか遠慮がちに歩道にせり出した品々の中に、デュエマの中古カード10枚入りパックがある。2パックを選んで中に入ると、ほのかに甘い匂いが鼻腔を満たす。ソフビ、プラモデル、ラジコン──古今東西の玩具が所狭しと並ぶ。僕の姿を認めて、店主のおじさんはほほ笑む。
僕は2丁目3番地の常連だった。
一番のお楽しみの時間は会計の後。1パック買うごとに1枚、おまけのレアカードをもらえるのだ。ファイルに収められたギラギラ光るカードの数々。どれにするか決めかね、地べたに座り込んで悩むこともあったが、おじさんは決して僕を急(せ)かすことはなく、思う存分に悩むことを許してくれた。
物を大事にするとはどういうことなのか。もしかしたら僕はそれを、おじさんの振る舞いから、あるいはあの空間から、学んだのかもしれない。
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