東大在学中にデビュー、作家・浅野皓生が回顧する「デュエル・マスターズ」に捧げた日々と、淡い別れの記憶
絶対に忘れないと思っていた出来事ですら……
そんな2丁目3番地は、ある日突然閉店した。おじさんが急逝したためだった。
言葉を失った。あまりにも現実味がなく、悲しいとすら思えなかった。
忘れられない出来事のはずだった。
今回このコラムの執筆依頼を受け、おじさんのことを書こうと決めたとき、ふと中学1年生のときの学校の弁論大会が頭をよぎった。「命が惜しくなるのはいつか」という、13歳には重過ぎる上に少しピントのずれたテーマでスピーチをしたのだが、確かそのときに2丁目3番地のことを例に挙げたのではなかったか。
辛うじて残っていた原稿を読み返してみて、がくぜんとした。
閉店したのは小学4年生の頃だと思っていたのに、実際は卒業直前のことだった。中学受験が終わったらおじさんに報告に行こうと、両親と話していたことも忘れていた。正式な閉店の前に、シャッターに「しばらく休みます」という張り紙があったことも。
絶対に忘れないと思っていた出来事ですら、記憶は確実に揺らぎ、変質していく。
だからせめて、「結界の守護者クレス・ドーベル」を、僕は大切に取っておく。
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