東大在学中にデビュー、作家・浅野皓生が回顧する「デュエル・マスターズ」に捧げた日々と、淡い別れの記憶

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絶対に忘れないと思っていた出来事ですら……

 そんな2丁目3番地は、ある日突然閉店した。おじさんが急逝したためだった。

 言葉を失った。あまりにも現実味がなく、悲しいとすら思えなかった。

 忘れられない出来事のはずだった。

 今回このコラムの執筆依頼を受け、おじさんのことを書こうと決めたとき、ふと中学1年生のときの学校の弁論大会が頭をよぎった。「命が惜しくなるのはいつか」という、13歳には重過ぎる上に少しピントのずれたテーマでスピーチをしたのだが、確かそのときに2丁目3番地のことを例に挙げたのではなかったか。

 辛うじて残っていた原稿を読み返してみて、がくぜんとした。

 閉店したのは小学4年生の頃だと思っていたのに、実際は卒業直前のことだった。中学受験が終わったらおじさんに報告に行こうと、両親と話していたことも忘れていた。正式な閉店の前に、シャッターに「しばらく休みます」という張り紙があったことも。

 絶対に忘れないと思っていた出来事ですら、記憶は確実に揺らぎ、変質していく。

 だからせめて、「結界の守護者クレス・ドーベル」を、僕は大切に取っておく。

浅野皓生(あさの・こうせい)
2001年、東京都生まれ。22年、「テミスの逡巡」で東大生ミステリ小説コンテスト大賞を受賞。24年、『責任』で第44回横溝正史ミステリ&ホラー大賞優秀賞受賞。東京大学法科大学院在学中。

デイリー新潮編集部

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