印刷所から「1行多いんですけど」と言われてヒヤヒヤ…週刊誌の校閲を悩ませる「行数調整」という難題

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「約物による調整」とは?

 先ほど「行数調整には2種類の調整方法がある」と書きましたが、現場ではBの調整、特に「約物による調整」をすることも多いです。

 約物(やくもの)というのは、句読点やカギカッコなどのことです。では、「約物による調整」というのは一体何でしょうか? 例えば、

 彼は、おめでとう、と言った。

 という文章は、そのまま数えれば句読点を含めて14文字ですが、2つある読点「、」を1文字分ではなく0.5文字分ずつに詰めれば13文字で処理することができます。「内容を全く変えていない」ことが大きなポイントです。

 同様に、文字数を増やすこともできます。

 彼は、「おめでとう」と言った。

 という文章ならば、通常の数え方で14文字分になるのですが、約物の前後の間隔を伸ばすことで15文字分にすることができるのです。

 約物の間隔の伸び縮みによって、1行だった文章を2行にしたり、2行を1行にしたりするということです。

印刷所からの電話に肝を冷やす……

 さらに、「句読点のぶら下げを活用する」とか「字間を広げる」といった手法もありますが、泣く泣く割愛……。ちなみに「週刊文春」では句読点のぶら下げがないなど、週刊誌によっても違いがあります。

 また、「内容を変えない調整」以外にも、校閲が「行数を増やす(減らす)方向での疑問出し」をすることもあります。もちろん、修正を強制するわけではありません。あくまで調整のお手伝いです。

 そして、校了直前に記者側の大幅な修正(行の増減を伴うもの)が入った場合などは、手書きの文字を一つ一つ数えて行数を計算したり、オーバーするようなら約物を調整して何とか収めたり……といった作業を校閲が行います。あまりに地味で、社内でもほぼ知られていない作業ですが、時間との戦いでもあり非常に消費カロリーの多い工程です。

 他にも行数調整の世界は奥が深いです。「週刊新潮」で言うと、実は特集記事の1ページあたりの行数にもいくつかのパターンがあり、途中での行数変更も可能です(写真などが入る関係上、行数計算の難易度が高くなりますが……)。これもBの調整の一つですね。

行数計算は肝が冷える?

 私自身も週刊誌配属当初、行数計算にとても苦戦しました。世間がイメージする「校閲」とはまったく別の仕事、そしてまったく外からは見えない仕事だと言えるでしょう。

 行数計算は、複雑なものになってくると慣れていても数え方を間違えることがあります。深夜に差し掛かって、印刷所から「1行多いんですけど……」という電話をいただくと肝が冷えます(本当にごめんなさい……)。

 また、外部原稿(すなわち、作家さんの原稿)の場合、「社内に書き手がいる」特集記事と違って、校了直前に内容を変更することが困難なため、行数調整は初校の段階で入念に行わねばなりません。著者に無断で内容を変えることは絶対に許されませんから、ここがプロとしての編集者と校閲者、それぞれの腕の見せ所となるわけです。

 ここまでの話、いかがでしたか。「タモリ倶楽部」のような番組が続いていれば私にも出演機会が巡ってきた……わけがないですね。では、代わりに、新潮社の講座のネタに……これもニッチすぎて厳しいですかね、はい。

甲谷允人(こうや・まさと Masato Kouya)
1987年、北海道増毛町生まれ。札幌北高校、東京大学文学部倫理学科卒業。朝日新聞東京本社販売局を経て、2011年新潮社入社。校閲部員として月刊誌や単行本、新潮新書等を担当し、現在は週刊誌の校閲を担当。新潮社「本の学校」オンライン講座講師も務める。

デイリー新潮編集部

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