「ウーバーイーツは利用禁止」「パソコンは一世帯一台まで」謎ルール満載の“渋谷の北朝鮮”マンションを住民はいかに取り戻したか 総会に参加し続ける「正攻法」こそ重要なワケ

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困難を極める抜本的解決

 刊行後、読者から寄せられた感想として最も多かったのが、「住人はこれだけ滅茶苦茶な管理を行った理事長を、より前の段階で解任することは出来なかったのか」ということだった。結論からいえば、これは難しかったといえる。

 後に総会での投票集計に異議を申したてた旧理事長と新理事会との間で訴訟に発展している。その際、裁判所は「旧理事会の管理がおかしい」という認定を1つも行わなかった。仮に住民運動の過程で理事長の解任請求を行ったところで、不正を証明するハードルは高い。つまり、マンション管理において、管理者側が有する過半数の住民の委任状は絶対的な効力を持つということだ。

 背景には性善説で成り立つ現行法の瑕疵もある。このマンションでも、反体制側による抜本的解決へのプロセスは困難を極めた。結果、その解決策として、「自分の住むマンション自治に関心を持ち、総会に参加し票を預ける」ことが最も近道でもあった。

 マンション管理のトラブルを深く取材するほど、その多くが勧善懲悪で片付けられるものではないことに気付かされる。秀和幡ヶ谷レジデンスでは、行きすぎた管理を行使した旧理事会側が過去に反社会的勢力に食い物にされかけたなど様々な苦難の末「マンションを守るため」様々なルールを作った、という大義名分を主張していた。その思いの強さゆえ、一部の区分所有者に権力が集中し、次第に対話を許さない組織へと変貌し、ますます独裁化していったのだ。

 そんな中で秀和幡ヶ谷レジデンスの住民運動の特筆すべき点は、先に触れた通り、総会に参加し続け、「あくまで正攻法を駆使して理事会交代をなし得た」という点である。独裁的な管理を行ってきた吉野理事長に対して、住民達は正しい道程を経て、過半数の委任状を獲得し、300世帯のうち、わずか2票差で理事を交代させ、“政権奪取”に成功した。

 突飛な発想や特別な技能が効果的だったわけではない。ひたすら根気強く一票の大切さを住民達に説くことが変化につながったのだ。

 デマ情報が飛び交い、首長選挙ですら認知が歪められる昨今において、その価値は一層際立つように感じさせられる。

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