なぜ「Switch2」は爆売れしているのか? 古市憲寿の分析は「画期的な商品でないからこそ」

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 任天堂の新ゲーム機「Switch2」が発売された。発売から4日で世界の販売台数は350万台を超え、SNS上では入手困難のアピール合戦や、転売の是非を巡って論争が起きている。

 なぜこんなに人気なのか。あるゲーム業界の重鎮は「Switch2は任天堂ゲーム機のiPhone化である」という分析をしていた。「週刊新潮」読者の年齢が分からないので(明治生まれでしょうか)、少し丁寧に説明していこう。

 明治の人も双六や囲碁は知っていると思うが、テレビゲームとは電気の力で動く「からくり双六」のようなもの。1972年、アメリカで「オデッセイ」という家庭用ゲーム機が発売される。白い点が動くだけのピンポン風ゲームで、画面は白黒、音なし、スコアも手書きで紙に記録という、信じられないほどシンプルなゲームだった。ちなみに家庭用ではないものの、日本でインベーダーゲームが登場したのは1978年。テーブル型の筐体で、喫茶店などで人気を博する。明治からしたらつい最近ですね。

 そんな中、1983年に任天堂がファミリーコンピュータ(ファミコン)を発売する。昭和時代には全ての「テレビゲーム」を「ファミコン」と総称する人がいた。それくらいファミコンは家庭用ゲーム機のスタンダードになった。画期的だったのはソフトがカートリッジ式でゲームを追加できたこと。「ハード1台=1ゲーム」という常識を崩したのだ。ファミコン時代に、「ゼルダの伝説」や「ドラゴンクエスト」などの人気作が生まれる。

 その後も任天堂は画期的なハードを発売し続ける。携帯ゲーム機のゲームボーイ、2画面とタッチ操作が特徴のニンテンドーDS、リモコン操作で体も使うWiiなど、数々の実験機を社会に送り出してきた。

 そして今度のSwitch2。古参の任天堂ファンには「つまらないゲーム機」と感じる人もいるようだ。なぜなら実験要素が少ないから。「2」という名前からも分かる通り、2017年に発売されたSwitchの後継機である。ただメリットもある。下位互換と呼ばれるが、過去にSwitchで発売されたほぼ全てのゲームが遊べるのだ。さらに旧作でも画質が良くなったりする。僕はSwitch2にまるで興味がなかったが、「どうせゼルダをプレイするなら奇麗な方がいいでしょ」と言われて少し心が動いた。

 今回のSwitch2はiPhoneが新機種を発売するようなもの。確かに性能は上がるが、初めてiPhoneを出した時のような衝撃はない。だがiPhoneが実験を繰り返したら困るように(もうVR以外の製品は出しませんとか時計分野に全集中しますとか)、任天堂も実験時代を終えたということなのかもしれない。正確にいうと過去にも3DSやWii Uはあったので、任天堂の方向性はSwitch3が発売されるかどうかで分かるだろう。どちらにせよSwitch2が世界を変えるような画期的な商品でないことは確か。画期的でないゆえに売れているのだ。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2025年7月3日号掲載

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