中学で相撲留学、初優勝を決める前日も「よく眠れました」 最速横綱「大の里」が歩む“唯一無二”の土俵人生【令和の名力士たち】

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「特別待遇」でのデビューから史上最速の初優勝へ

 大学4年時に2つのタイトルを獲得している大の里は、幕下10枚目格付け出しという「特別待遇」でのデビューとなった。

 初土俵の令和5年夏場所は、大学時代の実績を考えれば、7戦全勝による1場所での十両昇進が期待されたのだが、プロ初戦で日体大の2年先輩でもある石崎(現幕内・朝紅龍)に敗れてしまう。

 この場所は6勝1敗。そして、翌場所を4勝3敗と勝ち越した大の里は、秋場所で新十両に昇進した。

 十両はわずか2場所で通過。令和6年初場所では新入幕ながら9日目までに8勝1敗と勝ち越し、12日目には異例となる横綱・照ノ富士戦が組まれるなどの活躍が認められて、敢闘賞を受賞。

 そして、史上最速(所要7場所)となった初優勝は同年5月の夏場所のことだった。

大の里の「相撲魂」に火をつけた先輩たち

「11日目までに3敗していて、追いかける立場だったので、『優勝』を意識することなく千秋楽まで相撲を取れたのが優勝の要因です。14日目の夜もよく眠れましたし(笑)。この優勝で『自分の人生が変わった』というくらいの高揚感がありましたけど、師匠(二所ノ関親方)から、『これが目標じゃないんだぞ』とクギを刺されたことで目が覚めました」

 こう初優勝を振り返る大の里。その後の快進撃は、目を見張るばかりだ。

 令和6年9月の秋場所で2度目の優勝を果たして、大関に昇進。新大関からの2場所こそ、相撲に迷いが生じたものの、令和7年初場所後の2月は阿見町の二所ノ関部屋で師匠と共に相撲と向き合い、みっちりと稽古を積んだ。前年九州場所で琴櫻が初優勝、今年初場所では豊昇龍が横綱昇進を決めたことが、大の里の「相撲魂」に火をつけたのだ。

「負けたくない! もっと強くなりたい!」

 猛稽古は、今年春場所の結果となって現れた。千秋楽で「恩人」でもある高安との優勝決定戦を制して、3度目の優勝を決めたのだ。

パレード旗手も、横綱土俵入りの太鼓持ちも高安

「入門の後押しをしていただいた高安関との優勝決定戦は、やりづらさも多少ありました。館内では高安関への声援がすごくて、今まで味わったことのないアウェー感も感じましたしね(笑)。高安関にはいつもよくしていただいて、気にかけていただいているのですが、『勝負は別』という気持ちで相撲を取りました」

 今年5月の夏場所で4度目の優勝を決めた時の「優勝パレード」の旗手は、高安が務めた。両者に満面の笑みが溢れていた。

 そして、7月13日に初日を迎える大相撲名古屋場所。新横綱として登場する大の里の「横綱土俵入り」の太刀持ちも、高安と決まった。

「唯一無二」の横綱へ。そして、みんなに愛される力士へ。

 大の里への期待は膨らむばかりだ。

大の里泰輝(おおのさと・だいき)
本名、中村泰輝。平成12年6月7日、石川県河北郡津幡町出身。令和5年夏場所、初土俵(幕下10枚目格付け出し)。5年秋場所、新十両昇進。6年初場所、新入幕。6年九州場所、大関昇進。7年名古屋場所、第75代横綱昇進。優勝4回、殊勲賞2回、敢闘賞3回、技能賞3回。192センチ、191キロ。得意は、突き、押し、右四つ、寄り。二所ノ関部屋。

武田葉月
ノンフィクションライター。山形県山形市出身、清泉女子大学文学部卒業。出版社勤務を経て、現職へ。大相撲、アマチュア相撲、世界相撲など、おもに相撲の世界を中心に取材、執筆中。著書に、『横綱』『ドルジ 横綱朝青龍の素顔』(以上、講談社)、『インタビュー ザ・大関』『寺尾常史』『大相撲 想い出の名力士』(以上、双葉社)などがある。

デイリー新潮編集部

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