中学で相撲留学、初優勝を決める前日も「よく眠れました」 最速横綱「大の里」が歩む“唯一無二”の土俵人生【令和の名力士たち】

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 若手力士の躍進や外国人観光客の増加などにより、ますます高まる大相撲人気。だがいつの世も人を魅了するのは、力士たちの技と個性だ。ノンフィクションライターの武田葉月氏が、注目すべき現役力士たちを紹介するシリーズ「令和の名力士たち」。第2回は夏場所での綱取りに成功し、7月の名古屋場所で活躍が期待される新横綱・大の里が登場する。

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「横綱相撲」でつかんだ新横綱の座

 令和7年大相撲夏場所。

 3月の春場所で3度目の優勝を遂げて、「綱取り」がかかる大関・大の里は、初日、前頭・若元春、2日目に元大関・高安と、苦手としている力士に連勝。「(綱取りには)初日の入りが大切」と場所前に話していたように、快調なスタートを切った。

 横綱・豊昇龍が序盤戦で2敗を喫する中、大の里は8日目、ストレートで勝ち越しを決める。その後も勢いは止まらない。後続に3差を付け、全勝で迎えた13日目の対戦相手は大関・琴櫻。

 4度目の優勝と横綱がかかるこの一番でも、大の里は落ち着いていた。189センチ、179キロと体格的にも互角の相手に対して、すぐに右を差して、寄り切りで完勝。まさに「横綱相撲」で、新横綱の座をつかんだ瞬間だった。

 千秋楽から3日後の5月28日、横綱昇進を告げる使者を待つ大の里は、茨城県阿見町の二所ノ関部屋で口上の練習を繰り返していた。

「唯一無二の横綱を目指します」

 臨時理事会の承認を経て、使者がやってきたのは午前10時過ぎのこと。

「謹んでお受けいたします。横綱の地位を汚さぬよう稽古に精進し、唯一無二の横綱を目指します」

 と、よどみなく口上を述べた大の里。「唯一無二」の言葉は、大関昇進伝達式の際も口上に入れた。「横綱昇進の口上は、別の言葉を考えたい」と構想を練っていたものの、「やはりこの言葉しかない」と、最終的には、父・知幸さんから授かった大好きな言葉を選んだ。

 記者との質疑応答の後は、屋外に出て、恒例の騎馬の上でガッツポーズを。少なくても体重が150キロ超の力士の場合、3人の担ぎ手がいても支えるのが難しいため、ビールケースを足台に代用する場合が多い。幕内最重量191キロを誇る新横綱だが、この日は「正々堂々」と担ぎ手のみで騎馬に跨った。

 昇進の晴れ姿を、ひと目見ようと駆けつけたファンから大歓声が起こる。

「いいぞ、大の里! 日本一!」

 ニッコリと微笑む大の里。その姿を、故郷・石川県から駆けつけた父と母・朋子さんが目を細めて見守っている。

 翌日、師匠(二所ノ関親方=元横綱・稀勢の里)から、雲竜型の土俵入りを直接指導してもらった大の里は、30日、明治神宮宮殿内で、堂々とした横綱土俵入りを披露した。

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