ムード歌謡の歌い手・竹島宏「覚えていないくらいショックで……」涙ながらに語った“紅白落選”の絶望と、心に光を灯した松井五郎の言葉

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 2002年にデビューして以降、哀愁路線の歌謡曲を歌い、20年以上にわたり活動を続ける歌手の竹島宏。このたび、竹島に全2回のインタビューを実施し、前編では、デビュー秘話や音楽サブスクリプションサービス・Spotifyでの最大ヒット曲「夢の振り子」について語ってもらった。後編となる今回は、更なるヒット曲や、2025年6月に発売の新曲「小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片思い」を中心に話を伺っていこう。

コロナ禍で“抜け殻”になりながらも、ファンに届け始めた「花だより」

「夢の振り子」に次ぐSpotify再生回数ランキング第2位には、「はじめて好きになった人」がランクイン。本作は、坂本冬美「また君に恋してる」にも通じる美しい純愛バラード(どちらも作詞は松井五郎)で、第53回『日本作詩大賞』の審査委員特別賞を受賞したが、リリースされた’20年4月は、コロナ禍の真っ只中。そのため、演歌歌謡曲系の歌手の生命線であるコンサート及び会場での即売会はことごとく中止となり、CDセールスは前作「夢の振り子」の約1/4にまで伸び悩んだ。

「この時は、なんだか非現実の世界をさまよっているような感覚でした。なぜ僕は歌うのか、問い詰められているような。でも、みなさん、きっと同じ気持ちだったと思うので、なんとかお役に立てないかと考えていました」

 そして、竹島はX(旧Twitter)で、“花だより”と称して、色とりどりの鉢植えの花や花束を毎日投稿するようになった。

「毎日、魂の抜け殻のような状況で、たまたま花屋さんを通りかかった時、花々が美しい光を放っているように見えて、“なんて綺麗なんだろう”と。それで、ファンのみなさんにも、“花の画像を一緒に見ることで、安らぎの時間を持ってもらえたら”と思いました。以前は、チューリップやバラくらいしかわからなかったんですが(笑)、今では花言葉も気にするようになりましたね」

 それが’24年のシングル「ハルジオンの花言葉」のリリースにも繋がったようだ。

「作詞の松井五郎先生には、ご一緒していなかった期間もずっと気にかけていただいて、“竹島くん、最近、花言葉を投稿しているようだね”と。竹島宏という歌い手を、よく理解してくださっています」

「はじめて好きになった人」のCDセールスは伸び悩みつつも、そういった地道な活動がサブスクでの人気に繋がったのだろう。改めて、本作の魅力を尋ねてみると、

「アレンジもメロディーも明確に構成されていて、J-POPのバラードにも通じるものがあり、最初から“なんていい歌なんだろう”と思いました。実際に歌ってみると、じんわりとしみるような歌で、でもとても難しく、歌い手としての課題なんだと思っています。具体的には、声の響かせ方や、8ビートか16ビートかなど、リズムの感じ方をいつもと変えるようにしていますね」

『日本レコード大賞』企画賞にも輝いた“ヨーロッパ三部作”、その魅力とは

 Spotify第3位は、「プラハの橋」。本作と第5位の「一枚の切符」、第8位の「サンタマリアの鐘」は、“切符”を共通のキーワードとしてヨーロッパの街並みを歌った“ヨーロッパ三部作”となっており、彼の繊細な歌声も相まって、昭和感あふれるポップスとなっている。

「当初、『プラハの橋』の次回作として、山田ひろし先生が全く別の歌詞を書いてくださっていたのですが、僕には少し違和感があり、納得した形でレコーディングしたいので、何度も書き直していただきました。山田先生はヨーロッパの滞在歴が長く、文化や地理も詳しくて、プラハとパリ、そしてフィレンツェと3作をつなげた作品にしていただきました」

 注釈すると、「プラハの橋」では、帰る場所のある相手との許されぬ愛に別れを告げ、「一枚の切符」では、パリから夜更けの列車でその相手と逃避行していく前段階、そして「サンタマリアの鐘」では、帰る場所で待っていた別の男性がフィレンツェで“静かに生きてゆこう”と誓う内容だ。どれも昭和時代なら布施明や西城秀樹が歌っていそうな、哀愁漂う大作バラードとなっている。その甲斐あって、この三部作は、第65回『日本レコード大賞』企画賞を受賞した。

「まさかと思っていたので本当に嬉しかったし、この3曲分のミュージックビデオを授賞式で流していただけたのも、ものすごく光栄でした」

 さらに、本作は’25年1月と2月に竹島宏、庄野真代、宍戸開によるミュージカル『プラハの橋』の公演につながった。

「『一枚の切符』ができたあたりで、『プラハの橋』のミュージカルをやりたいと舞台制作の方からお声がけがあり、それが’24年の春には、“もう会場も押さえました”って連絡が入ってビックリしました。演出の田尾下哲先生が、この三部作をつなげた台本を書いてくださって。準備はとても大変でしたが、非常に良い経験をさせていただきました。

 庄野さんも宍戸さんも抜群の演技力と歌唱力ですから、よくおふたりが引き受けてくださったなと、本当に感謝しています。音楽は宮川彬良先生ですが、ミュージカルの曲はこれまで歌ったことがなかったし、舞台で実際に歌った時の声の響かせ方も学ばせていただきました」

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