ムード歌謡の歌い手・竹島宏「覚えていないくらいショックで……」涙ながらに語った“紅白落選”の絶望と、心に光を灯した松井五郎の言葉
「月枕」ヒットするも紅白出場ならず…どん底の竹島を救った松井五郎のひと言
Spotify第6位には、’17年のシングル「月枕」がランクイン。こちらはミディアム調の歌謡曲で、前述の松井五郎が作詞、郷ひろみ「言えないよ」や中西保志「最後の雨」を手がけた都志見隆が作曲しており、幅広いカラオケのファンも親近感がわきそうな曲調だ。
実際、CDセールスはロングヒットを続け、出荷ベースで10万枚を突破(これは同年の演歌・歌謡曲歌手として氷川きよし、山内惠介に次ぐ3番手の高セールス)。日本レコード協会のゴールドディスクにも初めて認定され、その年の秋には“竹島宏、紅白初出場か!?”といった報道が数多く見られた。しかし、三浦大知や竹原ピストル、WANIWAなど非演歌系のアーティストが初出場を果たし、竹島は涙を飲む結果に。
「その時のことはもう……覚えていないぐらいショックで。ファンの方からたくさんのお手紙やメールが届き、ファンクラブにも、泣きながらのお電話がじゃんじゃんかかってきていました。あの発表の翌日は、ちょうど『恋町カウンター』のレコーディングだったんですが、“なんで自分はこんなノリノリで歌わなきゃいけないんだろう”ってつらくなってしまい、スタッフの方々に平謝りし、後日録り直すことになったんです」
それをどうやって乗り越えていったのだろう。
「乗り越えたというか…ファンのみなさんや作家の先生方が引っ張ってくださった感じですね。その日も、松井五郎先生がスタジオに来て、声をかけてくださったんです。
“僕たちは、どんな曲も本気で作っているけれど、それでも全てが結果に繋がるわけではない。例えば、『また君に恋してる』も、最初は、ビリー・バンバンが歌っていたものを、坂本冬美さんが、新しい『いいちこ』のCMで歌ってくれることになって。それが、しばらくしてシングルのカップリングに収録されて、少しずつ話題になり、『紅白』で歌うことになって、遂には大ヒット(詳しくは、坂本冬美編の本連載参照)。そういう予想だにしなかったことにも、僕が詞を書いていなかったら辿り着かなかったんだよね。必ずしも、みんながその場所に行けるわけではないけれど、歌うことを止めてしまうと、そのスタート地点にすら立てないから。だから竹島くんも歌い続けてね。僕らは書くことで応援するから”と。
僕は、この『月枕』の時に、周りからも倒れるんじゃないかと心配されるくらいキャンペーンのスケジュールを詰めこんで必死でした。だから、あの時『紅白』に選ばれなかったことは尚更ショックで、歌手人生で初めての挫折を味わいました。でも、松井先生の“とにかく歌わないと始まらない”という言葉を胸に、どんなことがあっても歌い続けようと決めています」
竹島は、涙をうっすら浮かべながらも、真っ直ぐな目でそう答えた。
目指せ! 新曲「小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片思い」のカラオケヒット、その“歌唱ポイント”は
では、ここからは6月11日にリリースされた通算30作目のシングル「小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片思い」について尋ねてみたい。
「これは『ナイチンゲール』という名前でも知られる小夜啼鳥が登場するアンデルセン童話がモチーフとなっているんですよ。作詞の松井先生には、“小夜啼鳥が一生懸命に美しく鳴くことで、中国の皇帝が命をまた取り戻したけれど、小夜啼鳥は代わりに死んでしまう。でもその鳥は実は恋人の化身だった”という逸話を、レコーディング前にお話しいただきました。もちろん、いろんな立場の人がそれぞれの視点で歌の世界を楽しんでくださればいいのですが、僕としては“愛する人を救うために鳴き続ける”というスタンスで歌っています」
本作は、サビ頭から ♪愛しても、愛しても~♪ と竹島がいつになく切なく、しかし力強く熱唱しているのが印象的なバラードだ。これは、年初にミュージカルを経験したことが大きいのだろうか。
「作曲の幸耕平(みゆき・こうへい)先生は、“竹島宏=純愛”、“大人の歌”というのをメインに曲を作ってくださっていて、今回のミュージカルも観に来てくださったので、よりダイナミックな感じに仕上げられたんだと思います。幸先生からはずっと歌の訓練を受けていて、今回は出だしの“愛しても 愛しても 悲しみは消えない”というフレーズが繰り返される部分を、特に意識して歌っています。この歌をカラオケで歌う時は、この頭からアクセル全開にして情熱的に歌い上げてください。僕も、イントロから気持ちを作るようにしていますよ。そうしたらスピード感が違うので!」
本作は、ふだんJ-POPを歌う人にも是非カラオケで挑戦してもらいたい。歌うコツさえつかめば、持ち歌に出来る人も多いことだろう。
カップリングの2曲についても尋ねてみよう。Aタイプ収録の「こころの詩(うた)」は、彼のコンサートの終盤でも歌われそうな癒しのバラード、Bタイプ収録の「その先の明日へ」は、昭和のスポ根ドラマに出てきそうなほど、青春歌謡のような作風となっている。
「『こころの詩』は、“この殺伐とした世の中でも、聴いてくださる方を癒すようなものを”と僕のほうから松井先生と幸先生にお願いしました。なので、とても自然な気持ちで歌っています。『その先の明日へ』は、それとは対照的に元気が出るメッセージソングを目指しました!」
さらに竹島は、このランキング表にない歌として、’21年のアルバム『Stories』収録の穏やかなバラード「いつかの青年」もぜひ聴いてほしい、と付け加えた。
「『いつかの青年』は、上京したばかりの主人公と、それを回想する今の自分の気持ちが行ったり来たりするバラードで、“僕が大好きなさだまさしさんのように心温まる作品を”とお願いして作ってもらったんです。シングルだと尺の関係で難しいけれど、アルバムならではの長編がほしかったんですね。これは、僕よりご年輩の方でも、また、これから社会に出ていく方々にも響くものがあると思うので、よかったら聴いてみてください。実はいろんな曲を歌っているんですよ。自分でも今日振り返って、改めて気づいたんですが(笑)」
この日、竹島は取材5本目ということでかなり疲れているはずなのに、ユーモアを交え終始笑顔でインタビューに答えてくれた。また、ファンと交流する機会においては、一人ひとりに対して丁寧かつ誠実な態度で接しているのも印象的だった。かと思えば、ライブ中、舞台の上では一切水を飲まずに何曲も続けて熱唱するなどストイックな一面もあり、写真撮影の際には、哀愁漂う楽曲に合ったシリアスな面持ちでポーズを決める。
竹島の一部だけを切り取って短絡的に理解しようとする人もいるかもしれないが、彼の一挙一動には、“良い歌をリスナーに届けたい”という強い信念が一貫して見てとれる。そんな優しくもブレない人が、どの分野でも飛躍する世の中であることを心から願っている。
記事前編では“時流に乗って”デビューした経緯や、ランキング1位の「夢の振り子」について語っている。
【INFORMATION】
2025年6月11日、30枚目のシングル「小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片想い」発売!
Aタイプ
1 小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片思い 作詞:松井五郎 作曲:幸耕平 編曲:坂本昌之
2 こころの詩(うた) 作詞:松井五郎 作曲:幸耕平 編曲:坂本昌之
3 小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片思い (オリジナル・カラオケ)
4 こころの詩 (オリジナル・カラオケ)
Bタイプ
1 小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片思い 作詞:松井五郎 作曲:幸耕平 編曲:坂本昌之
2 その先の明日へ 作詞:松井五郎 作曲:幸耕平 編曲:坂本昌之
3 小夜啼鳥(サヨナキドリ)の片思い (オリジナル・カラオケ)
4 その先の明日へ (オリジナル・カラオケ)