「性欲処理も命懸け」「2日目のカレーは要注意」 5000体以上の遺体を解剖した法医学者が明かす「高齢者の死の落とし穴」
お風呂で「気絶」
熱さを正しく感じられずにお風呂に漬かっていると、そのままウトウトして湯船の中で寝てしまい溺死に至るケースがあります。実際には、これは「寝ている」のではなく、高温によって血管が拡張し、脳への血流が低下したことによる「気絶」です。「熱いお風呂に漬かり気絶して溺死」を避けるには、当然のことながらお湯の設定温度を低めにする対策が必要です。
なお、湯船の中で亡くなっていた場合、私たち法医学者は口から泡を吹いているかどうかに注視します。気絶した上での溺死の場合、まさに気を失っているので肺に水が入ってくることに気付かず、体が抵抗反応を示すことはありません。
一方、意識がある状態で肺に水が入り込んでくると、体は自然と水を吐き出そうとする抵抗反応を示します。つまり「もがく」ため、入り込んでくる水と肺の中にある空気が攪拌(かくはん)され、口からきめの細かい泡が出てくるのです。
従って、お風呂で眠るように亡くなっていた場合でも、ご遺体の口から泡が出ていれば、気絶による溺死ではなく、“誰か”によって強制的に沈められた事件の可能性が大なのです。
苦しみ悶えながら……
高齢者にとって、お風呂と並ぶ家庭内の危険エリアは、何といってもトイレです。
リビングでテレビを見た状態のまま、あるいはご飯を食べた姿勢のまま亡くなっている高齢者は「心臓」に何らかの異変が生じたことが原因であることが多いのに比べ、トイレの場合は「脳」が原因であるケースが大半を占めます。「いきみ」による脳内の出血です。
腸の働きが悪くなったり、また歯の衰えなどから食事のバランスが崩れがちだったりする高齢者は、便通が悪い場合が少なくありません。すると、たまった便を何とか押し出そうと、長い時間いきみ、気張る。その結果、血圧が上がって脳の血管がプチッと切れ、くも膜下出血などを引き起こしてしまうのです。
この「トイレで異常が起きて亡くなる」高齢者のご遺体の特徴は、ひざなどに擦過傷があることです。心筋梗塞など心臓の異変が原因で亡くなる場合は“一瞬にして”意識がなくなるのに対し、脳の場合、脳内で出血が起きてからしばらくは意識がある状態が続きます。ですので、何とかここから脱出しなければという逃避本能が働き、トイレから這い出そうとするため、ひざなどに傷ができるのです。つまり、トイレでいきんで脳の血管が切れると、苦しみ悶えながら死ぬことになってしまうわけです。高齢者こそ、便通をよくするために食物繊維が豊富な野菜などをより多く摂取することが求められます。
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