「性欲処理も命懸け」「2日目のカレーは要注意」 5000体以上の遺体を解剖した法医学者が明かす「高齢者の死の落とし穴」

ドクター新潮 ライフ

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パンによる窒息

 例えば「パンによる窒息死」です。あんなに柔らかいものがのどに詰まることがあるのかと思われるかもしれませんが、咀嚼力が低下した高齢者は、パンのようなものでも小さくかみちぎることができず、それがスポンジのように水分を吸収して膨らむと、気道の入り口が完全にふさがれてしまうのです。食べ物をのどに詰まらせて亡くなる人の約7割は80歳以上とされています。高齢者は「たかがパン」にも注意が必要です。

 なお、「温度の高い飲料」は、脳が飲み込みやすいものとして判断し、誤嚥しやすいため、熱いお茶はできるだけ冷まして飲むようにしてください。80度などの熱々のお茶は避け、60度以下がよいでしょう。

夏に暖房をつけてしまい死亡するケース

 これからの季節で特に気を付けたいことに熱中症があります。光熱費を節約しようと、エアコンをつけるのをケチって熱中症になり亡くなってしまう。熱中症による高齢者の死亡というと、こんなケースを思い浮かべるかもしれません。しかし、中には「熱中症対策で暖房をつけて死亡」してしまう高齢者がいます。

 信じられないかもしれませんが、目が悪い高齢者は、エアコンの冷房スイッチを押したつもりが暖房スイッチを押していたということが起こり得るのです。そして、知覚が鈍麻(どんま)しているせいで、暑い最中に暖房でさらに体が温められていることに気付かず、脱水症状に陥って亡くなってしまうのです。

 高齢者にとって知覚鈍麻は大きな問題です。若い頃は「熱いものは熱い」、「冷たいものは冷たい」と感じられたものが、加齢に伴いその感覚が鈍ってしまい、正しく温度を感知できなくなる。熱いお風呂もその一つです。45度などの高温のお風呂に漬かっている高齢者の中には、「長年の経験で、熱いくらいがちょうど気持ちよく感じられるようになっている」「今どきの若者とは根性が違うから平気」などと言う人がいますが、実は知覚鈍麻によって熱さが正常に感じられなくなっているに過ぎません。

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