被災地でも知事が農水省から“備蓄米を買う”のが基本だが…実は「無料放出」もあり得る制度の裏事情
第1回【大凶作や巨大地震でも“備蓄米”が「無料放出」されない根本的な理由…“有事”だろうと「入札や随意契約で売却」の知られざる背景】からの続き──。備蓄米が被災地に放出された事例として知られるのは2011年の東日本大震災と、2016年の熊本地震だ。(全2回の第2回)
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その際、多くの人は半ば自動的に「地震や津波で大きな被害を受けた住民のため、政府は無料で備蓄米を放出、自衛隊などが輸送して現地で配った」と想像するのではないだろうか。ところが実際は全く異なるのだ。担当記者が言う。
「東日本大震災では4万トンが放出されましたが、これは最初から被災者用ではありませんでした。地震や津波などでコメの卸業者も甚大な被害を受けていました。商品の要であるコメを失った業者も多かったため、政府は備蓄米を売却したのです。当時の報道を見ると無料の放出ではなく、農林水産省が入札を実施。コメ不足から新米並みの高い落札価格になったことが伝えられています」
熊本地震の場合、当時の報道を詳しく調べても無料で放出されたのか分からない。しかも農林水産省の文書「米穀の買い入れ・販売等に関する基本要領」には、被害を受けた地域の知事が農水省から備蓄米を《買い受ける》と明記している。代金は30日以内に払えという一文さえある。
その一方で、「基本要綱」には《米穀を販売する価格は、農産局長が別途定める》とも記されている。これを使えば買い取り価格をゼロ円にすることもできるかもしれない。
果たして熊本地震で政府は被災地に無料で備蓄米を放出したのか、それとも熊本県知事に売ったのか、農水省に取材を申し込むと「詳細はお答えできません」という回答だった。
「無料放出も不可能ではない」
農水省は公式サイトで備蓄米の「適性備蓄水準」を100万トン程度とし、量の根拠を《10年に1度の不作(作況92)や、通常程度の不作(作況94)が2年連続した事態にも国産米をもって対処し得る水準》と説明している。
実は備蓄米制度にとって地震など災害時の対応は“特例”にあたり、制度が本来想定している“本業”は凶作対策だ。
記録的な不作が発生し、備蓄米を放出する際はどのような手順になるのか、農水省に聞くと「想定される方法は、まずは一般競争入札の実施と随意契約の実施です」との回答だった。
江藤拓・前農林水産大臣は備蓄米の放出に入札を選び、小泉進次郎・現農水相は随意契約を選んだ。これと基本は同じというわけだ。
だが凶作で食うコメがなく、国民が切羽詰まっている時にも入札や随意契約を行うというのは違和感を覚える人も多いだろう。時間がかかって仕方がないし、政府が“収入”を得るというのも納得がいかない──。
農水省に質問すると、「『備蓄米を売り渡す価格をゼロ円にしてはならない』と書いていないのも事実です」と言う。「放出という言葉には無料というニュアンスがあります。緊急時に無料で放出することが不可能というわけではないと思います」との回答だった。
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