終活をしてはダメ、家族だけで過ごさない… 認知症にならない人の「九つの習慣」
年を重ねて以降の学習でも大丈夫
認知予備能の代表的なものとしては「教育歴」(1)が挙げられます。教育期間の長さが認知機能の低下に抗う“貯金”となり、認知症発症を防いでくれるのです。実際、学校教育歴が10年以上の人に比べ、6年以下の人は認知症発症リスクが3.5倍以上に高まるという分析結果が出ています。
幸いなことに、日本ではほぼ全ての人に10年以上の教育歴があるわけですが、仮に義務教育で終え、教育歴が9年しかない場合、認知予備能の“劣勢”を取り返すことはできないのでしょうか。
アメリカに「The Nun Study」という興味深い研究が存在します。修道女(Nun)を対象に、彼女たちの認知機能や脳の状態を調査した研究なのですが、その中に「シスター・メアリー」と呼ばれる101歳で大往生した修道女がいました。彼女は8年間の初等教育終了後に14歳で修道院生活を始め、学校教育歴は長くありませんでした。しかし、修道女になってからも勉強を重ね、41歳で高卒の資格を取得し、その後は教鞭も執りました。
大腸がんで亡くなった後、生前の本人の意志に基づいてシスター・メアリーの脳の病理解剖を行ったところ、老人斑や神経原線維変化といった認知症の症状が見られ、脳は明らかにアルツハイマー型認知症の「状態」でした。ところが彼女は、亡くなる直前までボケることなく過ごしていたそうです。このことから、認知予備能という“貯金”は、年を重ねて以降の学習によっても獲得可能であると考えられ、「若い頃、あまり勉強しなかったから」と諦める必要はないといえるのです。
家族のタイプによって……
例えば、複数の言語を操るバイリンガルやトライリンガルは、単一言語しか喋れない人と比べて、認知症と診断される年齢が3.5年分遅れるとの調査結果が示されています。母語以外で話すことによって脳がフル回転し、認知機能の低下を防いでいると考えられるのですが、このことから、中高年になって「外国語教室に通う」(2)のは、認知予備能を鍛える上で効果的だといえるでしょう。
事実、国立長寿医療研究センターの疫学調査では、経験や学習によって獲得する知識、言語能力などを指す「結晶性知能」は70歳ごろまで伸び続け、新しい状況などに素早く適応する「流動性知能」が維持されるのは50代中盤までで、その後は急速に低下するのに対し、低下の仕方も緩やかであることが明らかにされています。
次に、認知症になりにくい人の要素として「自己肯定感」(3)が挙げられます。アメリカで50歳以上の約10万人を、10年間追跡調査した結果が報告されています。困った時に助けてくれる「肯定的な家族」と一緒に暮らしている人と、そうではない「否定的な家族」に囲まれている人を比較した場合、前者のほうが2割程度、認知症発症率が低いという結果が出ました。
平たく言えば、肯定的な家族から感謝されたり、褒められたりすることが、脳に好影響をもたらすのです。年を取れば誰でも作業能力などは低下しますが、例えば料理の手際が悪くなっても、「おばあちゃんの作った料理はおいしいね」と褒められる環境で過ごすことが認知症の予防に役立つわけです。裏を返せば、おばあちゃんを認知症にしたくないなら、「料理に時間がかかり過ぎる!」などと叱って料理をさせず、その場から“排除”したりしないことが、家族にできる認知症予防対策といえます。まさに、赤塚不二夫さんの「これでいいのだ!!」の精神ですね。
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