跋扈する「トクリュウ」対策の切り札は専門捜査チーム「T3」 全国警察から精鋭を集める「FBI方式」で凶悪犯罪を殲滅できるか
10月から新体制に
「全国警察を挙げて、取り組みを強化する」
楠芳伸・警察庁長官が、居並ぶ各都道府県警察トップを前にこう語ったのは6月2日のこと。これに先立つ5月13日には「全国司令塔会議」が開かれた。各都道府県警察の「トクリュウ対策」指揮官が一堂に会した会議である。楠長官はこの会議で、次のように訓示した。
「匿名性の裏に潜む中核的人物と、その違法なビジネスモデルの実態を早急に解明し、解体する必要がある」
【写真を見る】本邦初の捜査体制でトクリュウ犯罪を一網打尽にできるのか?
2023年に警察庁組織犯罪対策第2課が定義した「トクリュウ」。SNSなどを通じ、犯罪ごとに緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」の略である。特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺、リフォーム詐欺、ネットバンキングからの不正送金など、トクリュウが絡んでいるとされる事件の被害額は過去1年間で約2600億円と急増している(警察庁調べ)。目下、日本警察にとって最大の課題がこの「トクリュウ対策」なのである。
「2003年に警視庁に発足した組織犯罪対策部が刑事部に統合され、全国警察が関係する大掛かりな組織改編になります。それも年度途中という異例の時期だけに、トクリュウ対策にかける、警察庁の意気込みがうかがえます」(全国紙社会部記者)
上述の「全国司令塔会議」の後、警察庁はトクリュウの中枢メンバー摘発に向けた新たな捜査体制を発表した。まず10月1日、警察庁に犯罪収益の流れなど全国のトクリュウに関する情報を集めて分析する「トクリュウ情報分析室」を新設する。
同日、警視庁には副総監をトップとする140人体制の「トクリュウ対策本部」を設置。同本部には来年4月までに、46道府県警から200人の捜査員を集め、専従捜査班「T3(トクリュウ取り締まりターゲット捜査チーム)」として、情報集約や分析を行う。警察庁と警視庁で全国のトクリュウに関する様々な情報を共有し、捜査の実務は警視庁の生活安全部や刑事部などの各部に加え、これも同庁刑事部に新設される「特別捜査課」で行うことになる。
「全国からT3に集められる捜査員は巡査部長、警部補クラスで、2年間をめどに警視庁に出向する形を取ります。トクリュウ対策本部で指揮を執る「対策監」には、警視庁では部長級の警視監が着任します。この組織改編により、組織犯罪対策部(組対部)は刑事部に統合されることになりました」(警察庁担当記者)
楠長官は、この新体制発足について、会見でこう述べた。
「最重要課題は中核的人物の解明と検挙。全国的、部門横断的な情報の集約や分析に基づいて、グループの中核的人物の摘発と、違法なビジネスモデルの解体を進めていきたい」
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