「女子だから思い切り相撲ができない、そんな悲しい思いを後輩にさせたくない」 27歳「今 日和」が挑む“変革”(小林信也)

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海外で修業を

 大相撲でも滅多に見られない二転三転の攻防。アンナは大きいだけでなく意外とうまかった。その感想を伝えると、今が言った。

「外国選手は腰高に見えますが、終わって振り返ると、あれは戦術なんだと分かった。こちらの重心に合わせず、あえて腰を高くして私みたいなチビの重心を浮かせたんじゃないか。それに投げの技術も高かった。最後も、私の投げにひっかかったふりをして、深く上手を取って投げにきた」

 アンナは巨体で怪力だけの力士ではなかった。映像を見直すと、アンナの動きの軽快さ、駆け引きのうまさが確認できた。世界の女子相撲のレベルは思った以上に高い。そして今の分析の確かさにも感服した。

 その後、19年にも世界選手権に出場し、いずれもウクライナ選手に決勝で敗れた。

「2年間、競技から離れてでも、海外で修業を積んでみたいと思った」

 アルゼンチンでは今が赴任してから倍の60人に増えたクラブのメンバーに指導するほか、各地で指導や講演を重ねる。

「いまは相撲が中心の生活なので、ほとんど悩みがありません。友だちもできました。アサードという牛肉の炭火焼料理もおいしい」

 今の成長と共に女子相撲がどう普及するか、その変革が楽しみだ。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部などを経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』『武術に学ぶスポーツ進化論』など著書多数。

週刊新潮 2025年6月5日号掲載

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