70分1.5万円…没入型演劇「イマーシブ・フォート東京」に感じたキビしさ オープン2年目で数々の疑問が

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心を動かされる演技

 物語はまず、ヨーロッパのオークション会場のようなセットから始まり、その後、舞台は吉原遊廓の通りに移っていく。その過程で観客自身も演者として物語に参加することになる。当日は参加者の約7割が女性で、テキパキと演技に入り込む姿が印象的だった。中には一目でリピーターだと分かる、完全に世界に溶け込んでいる常連客と思しき方も見受けられた。

 ネタバレ禁止のため内容はあまり詳しくは書けないのだが、通り沿いには遊郭を模したいくつかの小部屋があり、観客は道を行き交う演者たちに話しかけられたり、どこかへ連れていかれたりしながら、江戸の世界に入っていく。筆者は目隠しをつけて移動させられ、他の客としばらくいっしょに暗闇で待たされるなどの体験した。同行した編集者は別のところで全く違う経験をしたそうで、あとで「答え合わせ」をしたところ、筆者はその存在に気づきもしなかった登場人物がいたことを知った。

 さらに後から調べると「マルチエンディング」構成となっており、観客が演者としてどのように振る舞うかによって、展開や結末が変わる仕組みになっているらしい。何度でも楽しめるように設計されている、リピーターを想定した作りだ。

 そのリピーターこそが「イマーシブ・フォート東京」がターゲットとする客層なのだろう。さきほど触れた常連客たちは、体験型演劇そのものを楽しむだけでなく、出演している俳優たちを推すという、推し活的な楽しみ方もしていることがうかがえた。特定の人物が現れると、そこに近づき、“共演”を試みるのだ。そうした楽しみ方は施設側も歓迎しているようで、終演後には次回から使える割引サービスのほか、参加回数に応じてもらえる「ブロマイド写真」の特典も用意されている。

 推し活の視点で考えると、推しと距離が近く(演者に肩を抱かれるような場面も!)世界を共有できる没入型演劇は非常に魅力的なコンテンツだと感じた。実際、推しを持たない筆者も、俳優たちの全力の演技には心を動かされるものがあった。

ただし「コスパ」は…

 入場時には、スタッフからさまざまな規約の説明があった。スマホの電源は切るとか、客同士の会話は禁止など、正直、「そんなこと言われなくても…」と煩わしく感じたのだが、いざ体験してみると、それがいかに重要であるかがよく分かった。この演目は18歳以上限定となっているため心配は少ないのだが、予測不能な動きをする子どもや、自分本位な参加者を廃し、世界観を壊さないようにしなくてはならない。細かいルール作りも、体験の質を守るための配慮なのだ。

「値段」も、来場のハードルを上げることで、その「質」を守る防波堤になっていると思われる。そこは理解しつつも、とはいえ、少し考えてしまう料金設定ではある。

 先ほども触れた3月のリニューアルのタイミングで、イマーシブ・フォート東京は一日券制(1dayパス)を廃止し、個別演目ごとのチケット予約制へと、テーマパークとしての在り方が大きく変わった。筆者は1dayパス時代には訪れていないため比較はできないが、個別チケット制によって、自分の好きな演目を予約して1~2時間前後でサクッと楽しむ、タイパに優れた施設になったとは言えそうだ。

 ただし、コスパはどうか。今回体験した「江戸花魁奇譚」は、最も没入できるとの評価がある一方、約70分の体験で税込14,800円という値段設定だった。参考までにほかの演目を紹介すると、

『東京リベンジャーズ』(約105分)7,800円(税込)/4歳以上
『ザ・シャーロック』(約120分)7,800円(税込)/就学児以上
『今際の国のアリス』(約60分)4,800円(税込)/15歳以上
『真夜中の晩餐会』(約120分・食事付き)24,800円(税込)/18歳以上
『江戸花魁奇譚』(約70分)14,800円(税込)/18歳以上

 といった形だ。

 たとえば、東京ディズニーランドの1デーパスポート(大人)が7,900円~10,900円である。約70分の没入型体験演劇だからこその価値があることは理解しつつ、割高感は否めない。演者の人件費などのコストはあるにせよ、かなりハマらないと、複数回、遊びに来ようという気になるのは難しいのではないか。

 来場者が“参加”して楽しむ形のエンタメは、それこそ遊園地内のお化け屋敷などのような、数あるアトラクションの選択肢のひとつとして展開されているもの、あるいはイマーシブの形でも、一昨年に横浜で2日間だけ開催された船上での体験演劇「クルージング・イマーシブシアター」のような期間限定の形式をとらないと、ビジネスモデルとして成立しにくいのではないかとも思う。常設の専用施設にしてしまうと、家賃や収容人数の問題がある。それゆえ、イマーシブ・フォート東京も、単価を上げる手段としての価格設定を行い、リピーターを狙うビジネス設計になっているのだろう。

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