320万回再生で話題騒然! バレエ界のタブーに切り込み“正直過ぎる”動画で明かされたバレエ団の裏側

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

プロバレエ団に禁断密着取材

 創立75年を超える国内随一の老舗バレエ団でありながら、一時は経営破綻寸前のピンチに。しかし「禁断密着プロバレエ団」という思い切ったタイトルのYouTube動画が話題を集めて最初の1カ月で合計320万回再生を記録、あっという間に「チケットの取れないバレエ団」へと生まれ変わった――そんなドラマチックな展開をこの数年で経験したのが、谷桃子バレエ団だ。

 渡邊永人氏は、映像制作会社Sync Creative Managementのディレクターとして、一昨年の春にバレエ団の密着撮影を担当することになったものの、バレエについては知識もなく素人。勉強のために人生で初めて公演を観に行くも、あまりの難解さになんと30分で席を立ってしまった。

 バレエの面白さがわからなければ、面白い動画は作れない。そこで渡邊氏は「バレエを面白いと思えなかった」という正直な気持ちをバレエ団トップ・高部尚子芸術監督に告げる。

※本記事は、渡邊永人氏の著書『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』より一部を抜粋・再編集しお届けします。

 ***

バレエ監督の収入は“高校生のバイト以下”

 30分で5000円という、ある意味破格のエンタメ体験をしてからしばらく経ったある日。

 僕は谷桃子バレエ団の芸術監督・高部先生の自宅を訪ねた。

「すみません、まだレッスン中で」

 高部先生はそう言いながら僕を玄関へと招き入れてくれた。都内の住宅街の中にある3階建ての高部先生の自宅の1階には、バレエスタジオが広がっていた。

 実は高部先生は、芸術監督を務める谷桃子バレエ団とは別に、自らのバレエ教室を経営している。同じくプロバレエダンサーだったご主人とともに16年前、まだ高部先生が現役時代の39歳の時に作ったという。

「バレエ団からの収入より、夫婦で経営するバレエ教室からの収入の方が多いんです。正直にいうと、ほとんどがこちらですね」

 ダンサーのみならず、監督ですらプロバレエ団から十分に収入を得てはいないというから驚いた。とはいえ、4年前にバレエ団の経営を外部に任せるようになってからは、待遇はかなり改善されたという。

 信じがたいことだが、それ以前は、芸術監督としてバレエ団から月5万円しか受け取っていなかったらしい。芸術監督は指導だけでなく、作品の構成や振付も考える。だから家に帰ってからも創作という名の労働時間がある。それを高校生のバイト代にも満たない金額でやるというのは一体どこにモチベーションが生まれるのだろうか。

「昼間はプロバレエ団で指導して、夕方に自分の家のスタジオに帰ってきて再び指導。ほぼ毎日バレエ指導漬けの日々です」

 指導とはいえ、自ら踊って、動きの説明をしたりもする。高部先生の無尽蔵の体力は、撮影するたびに驚かされるポイントの一つだ。

監督もぶっちゃけ「バレエとハリー・ポッター、どっちを勧めるかと言ったら…」

 レッスンが終わると、リビングがある3階に案内してくれた。

 密着撮影を始めて1カ月が経っていたが、僕は初めてバレエ公演を観に行った時のことを高部先生に話せずにいた。今日はそのことについて話すのが、家を訪ねた目的の一つでもあった。リビングのソファーに座る高部先生と向かい合うように座り、僕はあの日のことを少し“配慮”しながら話した。

「実はこの密着撮影を始める前、人生で初めてバレエを観に行ったんです。正直に言うと、『面白いからバレエを観に行ってみなよ』と友達には勧められないなと思ってしまいました」

 静かに僕の話を聞く高部先生。

「30分で会場を後にしました」とストレートには言えず、少し遠回しな表現になってしまった。とはいえ、芸術監督を目の前にバレエのことを否定しているような気持ちになって、少し気まずさを感じた。

 だけど、高部先生なら何を言っても受け止めてくれるのではないか。密着を1カ月続けて知った、高部先生の器の大きさや、バレエ初心者の僕に対しても丁寧に向き合ってくれる姿勢に少し甘えてみることにした。数秒の沈黙の後に意外な言葉が返ってきた。

「私も渡邊さんと同じですよ。私は歌舞伎の他に、ミュージカルや演劇も好きでよく観に行くんです。この前はハリー・ポッターの演劇を観に行ったんです。とても素晴らしかった。バレエとハリー・ポッター、どっちを友達に勧めるかと言ったら……」

 高部先生は無言でハリー・ポッターの舞台のパンフレットを指差した。

 芸術監督本人でさえ、バレエ公演を無条件に誰にでも勧められるわけではないということだ。その理由はどこにあるのか。

「セリフを喋るのはダメなんですか?」

「わからない」

 これが、初めてバレエを見て僕が抱いた率直な感想だった。

 元々僕の本業だったテレビの世界で、一番に意識することは「わかりやすく作ること」だった。

 どんなに面白い映像が撮れていても、わからなければ意味がない。だからナレーションを入れたり、テロップ(画面上に出てくる文字)を入れたり工夫をする。もちろんそれがありすぎて邪魔だったり、演出が過剰すぎて見辛いという意見もある。

 とはいえ「わかりやすさ」に重きを置いてきた僕からすると、バレエはあまりにも“不親切”に感じてしまったのだ。

「セリフを喋るのはダメなんですか?」

 おそらくバレエ界の人からしたら、頓珍漢すぎる質問を、僕は真剣に投げかけた。

「確かにミュージカルや演劇はセリフで物語を理解させますよね。言葉がないって、本当に大変なことだなと思います。でも、だからこそ言葉に出して簡単に伝えられないような心の奥底の声を踊りで表現することができるんです。声にならない声というか……。それが伝わると観ている人はゾクゾクっとする瞬間があるんです。逆に言えば、そういう瞬間がないとバレエのようなセリフのない舞踊って意味がないのかもしれない。喋ってしまったらバレエじゃない――でも、確かに渡邊さんの言うこともわかります」

 何を見当違いなことを言ってるんだ!

 そう一蹴してもいいはずのバレエ初心者の僕の意見に対しても、高部先生は全力で答えてくれる。その姿に嬉しさを感じると同時に、自分の発言は軽はずみ過ぎたのでは、と少し後悔した。僕の不安をよそに、高部先生は続ける。

「でも、そうやって頑なに何も変えてこなかったから、今こういう状況になっているのかもしれませんね。だから、新しいお客さんがバレエを観に来なくなっているのかもしれません。だから渡邊さんの意見もそうですし、バレエを知らない人の意見はとてもありがたいです。昔は私もプライドが高くて、そんな意見に対して反発したりもしてました。でも今は違う。私自身が変わっていかないといけないと思っています」

 すごいなと思った。長い間自分が信じてきたものを疑い、新たに変わろうとする。それがどれだけ大変なことか。人は変化を恐れる。だって変わらないほうが楽だから、安全だから。

 この日の撮影を境に、僕のバレエ界への気持ちは日に日に強くなっていった。

 ***

 この後、ディレクターの渡邊氏は密着動画を初公開。

 あまりに生々しく過激で、バレエ通の人たちから批判の声も上がるなど賛否両論を巻き起こしたが、それまで破綻寸前の崖っぷちで売るのに苦戦していたバレエ公演チケットは売り切れ、バレエを人生で一度も見たことがない人たちが1万円を超える決して安くはないチケットを買い求め、会場に足を運ぶきっかけとなった。

『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』より一部抜粋・再編集。

 ***

 また、関連記事【 「引退したほうが幸せ?」 最高年収700万円、43歳で産後復帰したプリマが明かす「踊り続ける理由」 】では、不妊治療と高齢出産を乗り越え43歳で復帰したダンサーに密着し、「引退しようと思ったことはなかったんですか?」と失礼な質問をぶつけるなど文字通り過激な取材でダンサーからの“本音”をひき出す様子をご紹介している。

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。