「不合格を経験しすぎて、受かる自信はなかったです」 柔道世界女王・朝比奈沙羅が明かす3度目の正直で医学部に合格できた理由
2度目の医学部挑戦も力及ばず
大学の卒業を控えた朝比奈選手は、一般入試に加えて大学卒業生向けの学士編入学試験、AO入試(現、総合型選抜試験)、海外の医学部進学も視野に入れながら、医学部受験ツアーを始めることに。夏から秋かけて行われる医学部の「学士編入学・AO入試」試験に挑むこととなった。
「学士編入学・AO入試」は、一度大学を卒業した者(または卒業見込みの者)に受験資格が与えられる試験で、合格者は数名と少なく、そのぶんハードルも上がるが、大学2年または3年次への入学を可能とする大学もあり、医師として早く活躍できる点が長所と言えるだろう。
医学部の学士編入学・AO入試は、試験の内容に多少の差は見られるものの、英語や小論文に加えて、「自然科学」や「生命科学」という名称の理科の総合問題と、成績上位者による面接を経て合否が決められることが一般的だ。
「1次試験に合格しても、2次面接試験の日程がグランドスラム・東京大会出場と重なり、医学部合格に至っていない次年度に、再度同校を受験することになった場合、選考上不利になると考えて、なかには受験の出願を諦めた大学もあった」という。限られた時間で成果を出すべく、父と二人三脚で国際大会遠征日程と帰国している期間、受験日程の照らし合わせ、フライトスケジュールの確認、ホテル予約と現地到着後、受験会場への道中確認といった複数の要素を考慮した緻密なスケジュールを組み立て、パーク24からは物心両面の支えを受けながら受験に挑んだ。しかし、3校受験した学士編入学試験でも力は及ばず。自身2度目の医学部挑戦も涙を飲んだ。
受かる自信はなかった
それでも夢を諦めなかった朝比奈選手は、五輪出場を懸けた戦いに挑みながらも社会人一年目、3度目の受験に向けて勉強を続け、2019年に入って山口大学医学部を受験するも不合格、10月には通算受験7校目である獨協医大のAO入試(現、総合型選抜試験)を受験することに。原則として大学を卒業した30歳以下を対象とし、合格者はわずか数名の狭き門だが、朝比奈選手は果敢に挑戦を決め、理科3科目と数学を併せた記述形式の「適性試験」と、英文の出題に対して記述形式の「小論文試験」(英和辞書一冊持ち込み可能、電子辞書を除く)による1次試験に挑んだ。
「予備校に通って受験の準備を積み上げてきただけに、試験は少しだけ手応えを感じましたが、これまでにたくさん不合格を経験してきたので、受かる自信はありませんでした。ただ、『もし今回は力が及ばなかったとしても、このまま勉強を続けていけば、来年はきっと合格できるのでは……』という希望や自分の成長も感じられて、これまでよりは前向きな気持ちになれました」
やがて時は流れ、1次試験の合格発表日を迎えた。
「これまでにたくさんの不合格を見てきたので、落ちているかもしれない合格発表を見ることにかなりのストレスを感じるようになっていて、合格発表を見ないようにしていました」
そう話す朝比奈選手は、父からの電話で自身の一次試験合格を知ることに。
「気が進まない中で父に受験番号を伝えたら、『お前、受かっているよ!』と言ってくれて。初めて一次試験に合格できたことは、手汗が止まらないほど、本当に嬉しかったです」
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