「女性天皇」と「選択的夫婦別姓」に共通する課題 「伝統」を重視するのか「変化」を受け入れるのか
「女性蔑視ってわけじゃないんでしょうけど、夫婦別姓に反対している方々と女性天皇を拒否する方々は、かなり重なっているように思います」
中央省庁の現職幹部はこう指摘した上で、さらに続けた。
「国会議員の先生方を中心に、自称も含めて保守派を標榜する人たちは“伝統”を錦の御旗に掲げますが、時流から完全に目をそむける姿勢には、少し疑問を感じます」
「妻は夫の姓を名乗るべき」という意見も「愛子天皇待望論は論外」との考えも、確かに時代に背を向けた古臭いイメージが漂う。簡単に結論が出る問題ではないものの、歴史の重みか、未来志向か、結論を迫られる段階にきていることは間違いなさそうだ。
女性初の日弁連会長就任
夫婦別姓とは、選択的夫婦別姓制度の略語。夫婦が望む場合には、結婚後も夫と妻がそれぞれ結婚前の名字(姓)のままでいることを認める制度だ。民法では名字や姓を氏と呼んでいることから、正式には選択的夫婦別氏制度と呼ばれる。
現在の民法では、結婚すると男性か女性のいずれか一方が必ず名字を改める必要がある。実際には、男性の名字を選ぶケースが圧倒的多数だったが、女性の社会進出に伴い、改姓によって仕事や日常生活を送る上で不便や不利益が生じる事例が目立つようになり、「アイデンティティーが失われる」といった問題点も浮上。他国のように別々の姓のまま夫婦でいられる制度が度々取り沙汰されるようになったため、選択的夫婦別姓制度の導入を求める声が強まっていた。
そうした中、保守主義を謳う自民が昨年10月の衆院選で惨敗。夫婦別姓を主張してきた野党第一党の立民(立憲民主)が大躍進し、予算委員会と法務委員会の両委員長ポストを獲得したことで導入が現実味を帯びてきたというわけだ。
実は1991年、法務省は夫婦別姓への制度見直しについての是非を法制審議会に諮問しており、96年2月、選択式による夫婦別姓の導入を提言した「民法の一部を改正する法律案要綱」が答申されていた。この答申を踏まえて法務省は、96年と2010年の2度にわたって、それぞれ改正法案を準備したものの、自民を中心に「国民の賛否が分かれており時期尚早」などと反対したことなどから、いずれも国会提出には至らなかった経緯がある。
日弁連(日本弁護士連合会)は「別姓の選択肢は夫婦の対等な関係を構築する上で必要だ」と主張。24年4月、女性初の日弁連会長に就任した渕上玲子氏は夫婦別姓を強力に推進してきた人権派弁護士だ。日弁連関係者は「渕上さんにとって(夫婦別姓は)30年来の悲願なんです」と打ち明ける。一方で、自民の衆院議員はこう強調する。
「法務省案に乗っかって立民さんが4月に出した改正法案を日弁連も強力に後押しするなど、確かに風は吹いています。ただ、制度の導入が婚姻制度そのものや家族のあり方と密接に関係する以上、党内には反対意見が根強い。国会での審議には応じますが、まだまだ熟議が必要です」
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