小泉農水相と元テレ朝・玉川徹氏が「農家の大規模化」で意気投合も…コメ作りを知り抜く異色農家は「どんなに働いても生活苦な“小作人”が復活するだけ」

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実情を知らない議論

 木村氏は「何のことはありません、拙速な大規模化はコメで儲かる地主と、働いても働いても生活が苦しい小作人が21世紀の日本に復活するだけでしょう」と指摘する。

 まして海外で日本米の販路を求めるという計画に到っては、「輸出先さえ決まっていません。信じられるわけがないでしょう」と木村氏は切って捨てる。

 確かに零細な兼業農家ばかりだと弊害が多いことは木村氏も認める。だが今の大規模化は「議論が極論すぎます。もっとバランスを取る必要があるはずです」と言う。

「現在、私と妻で営農している面積は約3ヘクタールです。この人数で回すとすれば、営農面積を増やすにしても6、7ヘクタールが限界でしょう。私は、中山間地の農村における理想的な光景は、10ヘクタールの中規模農家がコメ作りの中核を担っている状態だと考えています。10ヘクタールなら、例えば夫婦と必要ならアルバイトの手伝い1人という小規模経営体で、中山間地にある手間のかかる田んぼでも、小回りをきかせながら対応できるでしょう。専門家でさえ、例えばアメリカの大規模小麦農家をモデルケースとする人がいますが、あまりに実情を知らないと言わざるを得ません。小麦は同じ場所で作り続けると連作障害が発生します。つまり、畑を休ませる必要があるのです」

小泉農水相の勉強不足

 アメリカの農家は小麦の連作障害を防ぐため、大規模農地の一部を休ませながら育てていく必要がある。だがコメ作りは異なる。

「コメは水を介することで連作が可能です。だから日本では、約2000年前の弥生時代から田んぼだけでなく水路や畔を整備、四季を通じて潤沢に降る水を先人たちは活用し、限られた国土のなかでも多くの日本人を養うことができたのです」(同・木村氏)

 日本のコメは1年に多くて2回しか収穫できない。一方で、水田は連作障害が発生しない。同じ場所で、毎年、作り続けることが可能なのだ。

「日本の伝統的なコメ作りは水田こそ狭くとも、開墾という労力をなるべく減らした結果、生産性と効率性が高まり、収量を確保してきたという歴史を持ちます。こうしたノウハウが今、急速に失われつつあります。小泉農水相やテレビのコメンテーターが『コメをたくさん作れ』と言うのは簡単ですが、このまま日本の農村を放置していると豊かな自然が失われ、ひいてはコメの生産量を増やすこと自体がさらに難しくなると理解してから発言してほしいと思います」

 第3回【「コメ5キロ2000円台」に執念を燃やす小泉農相が“敗北”するリスク…異色の兼業農家が「備蓄米の放出効果は限定的」と警鐘を鳴らすワケ】では、いくら小泉進次郎・農水相が5キロ2000円台のコメを放出したとしても、結局は5キロ5000円台に戻ってしまう可能性について詳細に報じている──。

【木村和也 プロフィール】
1971年、新潟県生まれ。東京農工大学大学院工学研究科博士課程中退。山と溪谷社勤務を経て、2010年株式会社フィールド&マウンテン創業に参画。現在、同社発行の山登りのフリーペーパー『山歩みち』の編集をしながら稲作農家を営む兼業編集者として活動。

デイリー新潮編集部

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